2015 Fiscal Year Research-status Report
膠原病様モデルマウスを用いたT細胞活性化をもたらす新規脂質メディエータの同定
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15K19577
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
尾崎 貴士 大分大学, 医学部, 医員 (70749374)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 脂質メディエーター / TRAF6 / LC-MS / 炎症 / 膠原病 |
Outline of Annual Research Achievements |
TRAF6をT細胞特異的に欠損させたマウス(TRAF6-ΔTマウス)では、T細胞が自然に活性化し、膠原病様の全身性炎症性疾患を引き起こす。我々はこのマウスを用いて以下2項目の実験を実施した。 (1)スフィンゴシン1リン酸(S1P)が誘導するT細胞活性化のTRAF6による抑制効果の検証 S1PがTRAF6-ΔTマウスにおけるT細胞活性化や炎症性疾患発症に関与しているか検証するため、S1P受容体の機能的アンタゴニストであるFTY720(フィンゴリモド)をTRAF6-ΔTマウスに炎症性疾患発症前から計5か月間投与した。投与後の脾臓T細胞のFACS解析では、FTY720投与群と非投与群でT細胞の活性化レベルに違いはみられなかった。また、各臓器の組織学的検査では、FTY720投与による明らかな抗炎症効果は認めなかった。このことから、S1PによるT細胞活性化をTRAF6が抑制するといった仮説は実証されなかった。 (2)TRAF6-ΔTマウスにおける膠原病様炎症性疾患に関連する脂質メディエーター・バイオマーカーの探索 CE-TOFMS、LC-TOFMSを用いたTRAF6-ΔTマウスの血清メタボローム解析を外部委託にて行った結果、TRAF6-ΔTマウスでは血中の長鎖アシルカルニチン(LCAC)濃度が野生型マウスに比べて高い可能性が示唆された。近年、LCACと炎症性サイトカイン産生との関連や、制御性T細胞(Treg)分化における脂肪酸β酸化の重要性に関する報告があり、我々はLCACに着目し、バイオマーカーとしての有用性やT細胞活性化との関連について検証した。当大学のLC-MSを用いてTRAF6-ΔTマウスの血中LCAC(ミリストイルカルニチン、パルミトイルカルニチン)濃度を再解析した結果、TRAF6-ΔTマウスと野生型マウスの間で明らかな差は認めなかった。また、脾臓由来naiveT細胞のTh17細胞やTregへの分化をLCAC投与下で検証したところ、分化への明らかな影響はみられなかった。以上より、LCACのバイオマーカーとしての有用性やT細胞活性化との関連を実証することはできなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
T細胞特異的TRAF6欠損マウス(TRAF6-ΔTマウス)で生じるT細胞の異常な活性化や膠原病様の全身性慢性炎症とS1PによるT細胞活性化シグナルとの関連について、機能的アンタゴニストであるFTY720投与による生体内実験を当初の予定通り行った。FTY720投与による抗炎症効果やT細胞活性化抑制効果は認めなかったことから、T細胞におけるTRAF6とS1Pの関連性について生体内で実証することはできなかった。また、TRAF6-ΔTマウスの血清メタボローム解析の結果から、ミリストイルカルニチンやパルミトイルカルニチンといった長鎖アシルカルニチンのバイオマーカーとしての有用性について検証したが、当大学のLC-MSを用いた解析にて有意な結果は得られず、細胞実験においてもT細胞分化との関連を証明することはできなかった。以上から、概ね当初の予定通り実験は遂行しているものの、TRAF6-ΔTマウスでみられる炎症性疾患に関連した脂質メディエーターやバイオマーカーの同定には至っていない。そこで、LC-MSを用いてエイコサノイドやその他の多価不飽和脂肪酸代謝物など計158成分を対象に網羅的に解析する分析方法を立ち上げ、条件検討を繰り返すなどして血中や臓器中の濃度の測定が可能となった。今後、膠原病様のモデルマウスを用いた研究を引き続き遂行する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、炎症性疾患における脂質メディエーターの関与に焦点を当て実験を遂行する。多臓器に炎症を呈しオリジナリティの高いT細胞特異的TRAF6欠損マウスの他にも、関節リウマチモデルであるコラーゲン誘発関節炎マウスやループス腎炎モデルであるMRL/lprマウスを用いることにより、血液中と炎症を生じた特定の臓器の両者における脂質代謝産物の変化をLC-MSを用いて解析し、バイオマーカーや新たな脂質メディエーターの候補を絞り込むことを目的とする。脂質メディエーターの中でも今回はω6脂肪酸由来のエイコサノイドやω3脂肪酸のDHA、EPA由来の代謝産物を網羅的に解析し、解析結果から着目した代謝産物については、細胞実験を追加で実施することにより病態を引き起こす機序との関連を検証する。
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Causes of Carryover |
動物の繁殖が計画通り進まなかったため、解析対象が当初の予定より少なかった。また、仮説通りの結果が得られず、研究の方向性の転換を余儀なくされたことから使用額に変更が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に主として消耗品として使用する予定。
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