2015 Fiscal Year Research-status Report
細胞外環境依存的な毛包幹細胞の恒常性維持機構の解明
Project/Area Number |
15K19709
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
森田 梨津子 国立研究開発法人理化学研究所, 多細胞システム形成研究センター, 研究員 (20700040)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | Live imaging / 毛包幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
組織や臓器の恒常性を支える幹細胞は、生涯に渡り細胞の供給源として機能するために、細胞外環境(ニッチ)と密接にリンクした柔軟でロバストな維持機構を構築している。また、成体毛包に存在する幹細胞は、均一な単一細胞集団ではなく、マーカー遺伝子の発現と毛包再生への寄与を基準にupper bulge、bulge、hair germの3領域に分類されている。成体毛包幹細胞の多様性とその維持機構は、胎仔(児)性の組織前駆細胞の集団から増殖と分化の時空間的発展の結果生み出される。これまでの幹細胞研究により、成体において組織幹細胞が維持・増殖・分化する仕組みの理解は進んだが、発生過程において幹細胞の多様性が正しい場所に正しい時に誘導される(生み出される)機構については、ほとんど理解されていない。毛包幹細胞の発生過程の解析が進まない一因に、初期幹細胞を標識しうるマーカー遺伝子がいまだ同定されていないことが挙げられる。この問題を克服するため、本研究では、マウス毛包発生のex vivo 4次元ライブイメージング法を確立し、1細胞解像度での毛包器官発生の4次元イメージングと1細胞トランスクリプトームを統合させることにより、毛包表皮幹細胞が誘導される動的システムの解明を目指した。本年度は、マウス毛包発生のex vivo 4次元ライブイメージング法を確立し、毛包の全細胞の動態と系譜を追跡することで、毛包幹細胞の起源と細胞系譜を、時空間情報を元に同定することに成功した。さらに、イメージングから明らかとなった毛包幹細胞の系譜とその時空間情報に、構成細胞の状態変化に関する情報を付加するため、特定のマーカーに頼らずに、任意の時間、空間に存在する細胞集団を標識し、組織から単離するまでの手法を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたとおり、すでに毛包発生過程(胎齢11.5-17.5日)の細胞動態解析を進め、幹細胞の系譜とその発生予定領域を同定することに成功している。そこで次の課題として、毛包幹細胞の前駆細胞の細胞状態が他の細胞とどのように異なるのか、またどのような状態変化を経て組織幹細胞へと発展するのかを明らかにすることが挙げられる。イメージングから明らかとなった毛包幹細胞の系譜とその時空間情報に、構成細胞の状態変化に関する情報を付加するため、特定のマーカーに頼らずに、任意の時間、空間に存在する細胞集団を標識し、胎仔期毛包組織からsingle cellをFACSにより単離し、single cell RNA-seqまでの一連の実験を実施することで、胎齢13.5日, 15.5日毛包の幹細胞予定領域を構成する細胞の1細胞トランスクリプトームデータを得ている。バイオインフォマティクスでの発現解析は現在進行中であるが、高品質な発現データが得られている。一連の実験を通して、発生過程の幹細胞系譜、動態、遺伝子発現の変化を結びつけて解析することが可能となってきた。以上の事由より、本研究は当初の計画以上に進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記記載の予備的実験の成功を受けて、今後は、幹細胞が生み出される過程において見出されるであろう、幹細胞予定細胞の存在とその時間的発展を、細胞動態解析とRNA seqの両面からより詳細にプロファイリングしていく。そのために、RNA seqにおける解析対象とする発生ステージおよび細胞数を増やして解析を進めていく方針を固めている。また、発生過程の自然な幹細胞動態を明らかにするだけでなく、時空間的に加えられた環境変化に対する細胞の応答や動態の変化を、遺伝子発現の変化とともに解析することで、幹細胞の誘導や維持における細胞外環境の役割を理解する。さらに、RNA-seqから新規に同定される幹細胞前駆細胞のマーカーを用いて、single cell RNA-seqから得られたトランスクリプトームデータをライブイメージングの動態データに統合させ、マルチオミックスデータの統合的解析から、多様な成体毛包幹細胞の起源とその誘導メカニズム、さらに維持機構の成立過程をこれまでにない解像度で理解することを目指す。
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Causes of Carryover |
今年度は、画像解析が多用されるため、施設内の顕微鏡使用料として年間21万円を計上していたが、検討を進める過程で課金されない機器の使用に転換したことから、予定していた支出額よりも支出が抑えられることとなった。また抗体を使用した組織学的な解析の必要性が見込まれるため、生化学実験に50万円を計上していたが、本年度はよりLive imagingによる動態解析が優先され、組織学的な解析は今年度の解析を受けて次年度の重要検討事項となった。さらに参加を検討していた学会が震災の影響で開催されなかったことから、旅費の使用もなくなり、その結果当初の予定よりも使用額が少なくなる結果となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、今年度の繰越金と翌年度分として請求した助成金により、5つの発生ステージについて大規模なSingle-cell RNA seq解析を予定している。また本解析から特定される新規マーカーを用いた遺伝子改変動物の作成や組織学的な解析を予定している。
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