2015 Fiscal Year Research-status Report
養育行動における視床下部視索前野カルシトニンレセプターニューロンの機能神経解剖学
Project/Area Number |
15K19755
|
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
時田 賢一 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (70384188)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 内側視索前野 / 養育行動 / マウス / 神経解剖学 / カルシトニンレセプター |
Outline of Annual Research Achievements |
親による児童虐待や母性剥奪が、子供の成人後のうつ病、不安障害、人格障害、次世代へ待の繰り返しなどの発症リスクを高めることは臨床的に古くから知られている。このような不適切養育行動の効果的な予防・治療法が開発には、まず親の正常な子育て(養育行動)を司る神経機構を解明しなければならない。本研究課題は、ラットやマウス等のげっ歯類をもちいた先行研究により、養育行動を制御する神経ネットワークの最も重要な部位として考えられている内側視索前野(MPOA)の機能神経解剖学的側面を明らかにしようとするものである。より具体的には、MPOAに存在するニューロンのうち、カルシトニンレセプターを発現しているニューロンに限定して、その出入力神経連絡を明らかにするとともに、これらのニューロンの機能剥奪と機能亢進がマウスの養育行動に与える影響を調べた。神経解剖学的実験のうち出力投射解析実験では、GFP を組み込んだアデノ随伴ウィルス(Cre-dependent Adeno associated virus: AAV)をCalcr-Cre マウスのMPOA に限局して微量注入し、投射部位の特定を進めている。現在既に複数のマウスからのデータを得ている。入力投射解析実験では、AAV と変異型狂犬病ウィルスを用いて、CT-R ニューロンに単シナプス性に入力している脳部位を網羅的に検索しており、これも同様に複数のマウスからデータを得ており、データの定量化に取り掛かろうとしている段階である。カルシトニンレセプターニューロンの養育行動における機能解析実験では、テタヌストキシンを組み込んだAAVをCalcr-Cre マウス(未交尾メスおよび母マウス)のMPOA に微量注入することで、CT-R ニューロンを特異的に不活性化した結果、有意に養育行動が阻害されるという結果を得ている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題申請時に研究計画に含まれていた実験は、1)カルシトニンレセプターニューロンの出力投射解析、2)カルシトニンレセプターニューロンの入力投射解析、3)カルシトニンレセプターニューロンの不活性化が養育に与える影響を調べる行動実験の3つであった。これらの実験のうち、1の出力投射解析実験では、当該年度におこなった実験によって、最適な結果を得るためには、どの程度の量のウィルス液を注入すればよいか、ウィルス注入から灌流固定までどの程度の期間を置けばよいか、等の基本的なパラメータを定めることができた。現在得られた最適な実験条件にしたがって、データ数を蓄積している段階である。したがって、1の出力投射解析実験に関しては、時間をかけて良好なデータを蓄積さえすれば確実な成果が得られるといえる。1の入力投射解析実験についても、現在までにまとまったデータは得られている。これらのデータのうちの多くは、最終的なデータ解析にも耐えうる質であり、現在は定量化にとりかかろうとしている段階である。追加実験も必要とは思われるが、おおむね順調に進捗しているといえる。3の不活性化の行動実験では、行動上のデータに関しては既に統計処理をしても有意な差が得られている。今後、脳組織切片の解析により、ウィルスの注入部位の正確性と行動の関係をより精緻に検証していかなければならないが、現在のところ良好な結果が得られているといってよい。
|
Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」で述べたように、現在までのところ、本研究課題はおおむね順調に進捗しているといえる。実験遂行に伴う方法の問題点はおおむねクリアできており、データの蓄積とその解析の段階に今は入っている。したがって、基本的な研究計画について大幅な変更の必要性は現在のところ認められない。メスとオス両方のマウスからの基本的データを得ることを目標としているが、子育て・養育という行動の性質からして、メスをもちいた実験を優先的におこなっている。仮に今後データの蓄積に予想以上に時間が必要になった場合、メスとオスの両性からデータを得ることよりも、メスのみに関して確かな結論が得られるような十分な量のデータを得るための実験を優先させる予定である。しかしその場合でも、定量的な統計解析には耐えられなくとも、オスマウスの少数の代表的データを示すことで、性差による神経メカニズムの違いに関して言及できると思われる。また、メスマウスに関して、出産経験の有無という社会的経験・記憶が結果の違いに現れることを期待しているが、仮に差が得られなかったとしても、両データをまとめることでメスマウス一般における養育行動の脳内機構に関する重要な知見を提供できると考えられる。MPOA不活性化の行動実験に関しては、行動では有意な結果を得られているが、仮に脳組織切片を調べた際にウィルスが全く感染していないなどの問題があった場合には、薬理遺伝学などの他の方法を用いて同様の実験をおこなう。薬理遺伝学については、既に所属研究室ではノウハウがあり、実施に伴う大きな問題はない。
|
Causes of Carryover |
組織切片の染色に必要な薬品購入額が、想定していたよりも少なかったため
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度に遂行した実験により、データ解析すべき多くの組織切片が得られたため、その染色に必要な薬品を購入する
|