2016 Fiscal Year Research-status Report
リアルタイムイメージング法を用いた放射線抵抗性浸潤細胞の解析
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15K19833
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
藤田 真由美 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線障害治療研究部, 主任研究員(定常) (80580331)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 細胞浸潤 / 放射線照射 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線治療は侵襲のない局所療法であり、高齢化社会に移行しつつある日本では重要ながん治療法のひとつである。重粒子線治療では、これまでの臨床研究で高い抗腫瘍効果が示されているが、治療後の生存率をさらに上昇させるためには、再発及び浸潤、転移をいかに抑制できるかが重要である。課題代表者らは、これまでに31種のヒト癌由来細胞株を用いた検討により、炭素線照射はX線照射に比べ、大多数の癌細胞株の浸潤抑制に効果的であるが、ある特定の細胞株(PANC-1)においては浸潤能が誘導されることを見いだした。では、なぜ特定の細胞株では炭素線照射後に浸潤能が上昇するのか。照射によるストレスに打ち勝ち、生き残り、さらに高い浸潤能を示す放射線抵抗性浸潤細胞の特徴を明らかにするため、本課題では照射後に生き残った細胞の挙動をリアルタイムに可視化する系を立ち上げた。細胞内小器官を蛍光ラベルし、照射後のストレス応答と細胞運動能の変化をリアルタイムに観察することで、全体の中で特に生き残り、かつ運動能が亢進する細胞群(放射線抵抗高運動細胞)がどのような細胞で、また、どのような過程を経て生じたのか明らかにすることを目的とし実験を進めている。 これまでの結果より、PANC-1細胞のうち照射後に生き残り運動能が上昇する細胞集団では、強固なミトコンドリアの染色像が確認され、細胞の移動方向にミトコンドリアが集積することをリアルタイム観察から見いだした。また、ミトコンドリアの重要な役割である酸化的リン酸化を阻害すると、PANC-1の浸潤できる細胞の数が顕著に減少した。これらのことから、照射後に生き残り高運動能を示す放射線抵抗高運動細胞では、ミトコンドリアの機能が重要な役割を担っていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度(H27年度)はまず、PANC-1細胞のミトコンドリアを蛍光染色し、照射後の挙動をリアルタイムに観察する系を立ち上げた。その結果、照射後に生き残り高い運動能を示す細胞群では、ミトコンドリアの強固な染色像が確認された。これまでに課題代表者らは、PANC-1細胞の中でも、特に放射線照射後に高い浸潤能を示す細胞集団は、一酸化窒素(NO)を産生する細胞集団であることを報告してきた(Fujita et al, 2014)。NOは細胞内のミトコンドリア数を増加させることが知られている。ミトコンドリアは酸化的リン酸化によりATPを産生する。そこで、今年度(H28年度)はPANC-1浸潤細胞におけるミトコンドリアの意義を明らかにするため、酸化的リン酸化によるATP産生を阻害するrotenoneを用いて浸潤アッセイを行なった。その結果、解糖系の阻害剤では浸潤細胞の数は抑制されなかったものの、rotenone添加群では浸潤できる細胞の数が顕著に減少した。このことから、ミトコンドリアからのATP産生はPANC-1が浸潤能を維持するのに重要であることが明らかとなった。酸化的リン酸化が活性化する細胞では、その過程でROSが多く産生されることが知られている。その後の研究から、PANC-1浸潤細胞では、その他の細胞集団と比較し、過酸化水素を除去するグルタチオン経路が活性化しており、過酸化水素暴露に対して抵抗性であることが明らかとなった。 細胞のリアルタイム観察から得られた情報を元に、初年度は照射後に生き残り運動能が上昇する細胞群の特徴が明らかとなった。今年度は、その特徴から、実際に浸潤細胞群がどのような細胞集団か、新しい角度から解析し、重要因子を見いだすことができた。よって、「研究は概ね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の目的は、①炭素線照射後に生き残り高浸潤能を示す細胞の特徴をリアルタイム観察像からヒントを得て解明することである。また、②照射後に高い浸潤能を示す細胞は、元々浸潤能が高かったのか、もしくは、照射後のストレス応答の過程で高浸潤能を獲得したのか、明らかにすることである。 ①については、PANC-1の照射後に生き残り運動能が上昇する細胞群の特徴として、強固なミトコンドリア染色が確認されることが明らかとなったが、その後の研究でPANC-1の浸潤細胞では酸化的リン酸化が重要であることが見出された。さらに、それら浸潤細胞はROSに対して抵抗性であることも明らかとなった。PANC-1の中でも浸潤能が高い集団(NOを産生する細胞集団)がROSに抵抗性であるとすると、これら細胞集団は放射線に対しても抵抗性である可能性が考えられる。まだ予備実験であるが、現段階で、PANC-1浸潤細胞は、炭素線照射に対しPANC-1全体の集団よりも抵抗性である結果が得られている。仮に、これら集団が放射線抵抗性を示した場合、②の答えとしては、照射後のストレス応答の過程で生き残った細胞の一部が高浸潤能を獲得したのではなく、元々高い浸潤能を示す細胞群が放射線抵抗性である為に、より高い確率で生き残ったため、あたかも全体のうち浸潤能を示す細胞群が炭素線照射後に上昇するように見えたことが予想できる。来年度は、②の答えをさらに明確にするため、PANC-1の浸潤細胞をトランスウェルから回収し、それら集団がその他の集団と比較し放射線抵抗性が解析する。さらに、今年度までに得られた照射後に高い浸潤能を示す細胞の特徴から、このような細胞群を効率よく殺傷するための方法を、ミトコンドリアの機能阻害剤やグルタチオン合成阻害剤などを用いて検証する予定である。
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