2015 Fiscal Year Research-status Report
HCC再発のリスク因子(腫瘍および背景肝)となるlncRNAの同定とその臨床応用
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15K19848
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
園原 史訓 名古屋大学, 医学部附属病院, 医員 (30745534)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | lncRNA / 肝細胞がん / リスク因子 / 背景肝 |
Outline of Annual Research Achievements |
肝細胞がん(HCC)は慢性肝炎を発生母地とし,肝硬変へ進行すると30~50%にHCCの発症を認めるため,HCC早期発見や予後に関わるマーカーを探索することは重要である.ヒトの細胞内には多量のnon coding RNAが存在するが,200塩基以上のlong non coding RNA(lncRNA)もがんの発生や進展に影響していると予想される.また,HCCでは腫瘍の遺伝子異常の評価に加え,発生母地である背景肝の遺伝子異常の理解が重要である.そこで腫瘍及び背景肝におけるlncRNAの発現,がんの発症や進展との関連,予後への影響を検討し,さらにはHCC易発症性マーカーを抽出することを目的として本研究を開始した. 1.HCCの発生や予後に関連するlncRNA候補をマイクロアレイを用いて抽出した.転移性肝がんの非腫瘍部と典型的なHCCの非腫瘍部の遺伝子発現プロファイルをマイクロアレイで網羅的に比較した.この結果から候補となるlncRNAを抽出した. 2.予備実験として転移性肝癌の非腫瘍部およびそれぞれ24例の予後不良HCC群と予後良好HCC群のがん部、非がん部での発現を調査した.この結果からさらに診断マーカーや予後マーカーとして有望なlncRNAを選別した. 3.さらに2で抽出したlncRNAの発現を多数例のHCC切除例で検討した.1998年から2011年までの当教室で施行されたHCC治癒切除147例の切除標本の腫瘍部および非腫瘍部から全cDNA(相補的DNA)を作成し,定量RT-PCR法を用いて各lncRNAの発現状況を調査した.これらの実験結果と臨床病理学的因子や予後との関連の検討を行っている. 4.特定のlncRNAが早期診断のマーカ―として有用かどうかを検討するため,より採取しやすい体腔液である血液検体をHCC患者,HCC発生前の肝炎患者などから採取中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
① HCC(肝細胞がん)の発生や予後に関連するlncRNA(long non coding RNA)候補を抽出するために,典型的なHCCの背景肝と転移性肝癌の背景肝の遺伝子発現プロファイルをマイクロアレイで網羅的に比較した.この解析結果から候補となるlncRNAを抽出した. ② 予備実験として転移性肝がんの背景肝,それぞれ24例の予後不良HCC群および予後良好HCC群の背景肝組織と腫瘍組織を用い,①で候補とした各種lncRNAの発現状況を定量RT-PCR法で検討した.この結果をもとに診断マーカ―や予後マーカ―になる可能性のあるlncRNAの候補をさらに選別した. ③ 多数例のHCC切除臨床検体(当教室におけるHCC根治手術が施行された147例)における当該lncRNAの発現状況を定量RT-PCR法を用いて調査した.これらの発現状況と臨床情報を併せた解析を行っている. ④ これまでに収集したHCC患者の血液検体に加え,さらに異なる臨床背景をもつHCC患者やHCC発症前の慢性肝炎患者の血液検体を収集中である.今後はこれら血液検体や可能であれば唾液など,入手がより簡便な臨床検体を用いてlncRNAの抽出を試みる.
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Strategy for Future Research Activity |
血液などの体液検体採取が進んだ後に,それらに含まれるcell free lncRNAの抽出を試みる.採取したHCC患者の手術前および手術後の体液を用い,平成27年度の結果から抽出した背景肝因子として有望なlncRNAを定量RT-PCR法を用いて検出することを試みる.体液中のlncRNAと切除肝の腫瘍部,非腫瘍部における当該遺伝子の発現状況を比較し、相関関係を明らかにして予後マーカーとしての可能性を探索する.また,HCC発症前の慢性肝炎(ウイルス性,脂肪性,アルコール性など各種)患者の検体で当該lncRNAの発現状況を調査し,HCC易発症性マーカーとしての可能性も検討する. 平成27年度の結果から,有望な遺伝子についてはsiRNA法やアンチセンスRNA法を用いたRNA干渉を利用して発現消失系,ウイルスベクターやプラスミドベクターを用いた強制発現系などをHCC細胞株で作成する.これらの細胞株における増殖能の変化,浸潤能の変化および抗アポトーシスの変化などを検討し,当該遺伝子の細胞株における影響を調べる.共発現系を用いて当該遺伝子を強発現する細胞株が他の細胞株に与える影響を実験系において調査する. さらに有望なlncRNAについては当該lncRNAがターゲットとして制御する分子についても同定を試みる.発現消失あるいは強制発現を用い,当該lncRNA(+):当該lncRNA(-)の細胞を比較して発現アレイ,メチル化アレイなどのマルチアレイを行い,それらの間にある変化を比較することで,当該lncRNAがターゲットとする分子の同定を試みる.ターゲットとなる分子の発現変化がHCCの発症に何らかの関連をもつかどうかを調査する. これらの知見については十分な考察を加えた上で、学会・論文等で社会に発信していく.
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Causes of Carryover |
概ね初年度の予定に沿った計画を遂行したが,初年度に予定していた体腔液からのcell free lncRNA抽出実験についてはサンプル収集が続いており,使用予定であった実験試薬や機器の使用が無かった.また,予備実験などから有望なlncRNAの絞り込みを行ったが,当初の見込みよりも絞り込んだ結果の数が減少したため,その分の試薬代や機器の使用代などが減少した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
初年度より収取している体腔液のサンプルが揃ったところで体腔液のcell free lncRNAの抽出を試みる.このサンプルを用いてこれまでに抽出したHCC早期発見や予後予測のマーカーとして有望と思われるlncRNAを定量RT-PCR法を用いて比較する.HCC患者のみでなく,可能であればHCC発症前の慢性肝炎患者の体腔液における当該lncRNAの発現状況も調査する.このための実験試薬代や機器使用にかかる費用に次年度使用額を用いる予定である.
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