2015 Fiscal Year Research-status Report
脊髄前角運動ニューロンに対する活性酸素の作用機序解明と新規脊髄保護療法の開発
Project/Area Number |
15K19989
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
大橋 正幸 新潟大学, 医歯学総合病院, 医員 (70706720)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 活性酸素 / 脊髄前角 / パッチクランプ / シナプス伝達 / 電位依存性カルシウムチャネル / 過酸化水素 / リアノジン受容体 / 脊髄保護療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
活性酸素は中枢神経系の外傷、虚血の病態に関与している分子種である。本研究では活性酸素の一つである過酸化水素 (H2O2)の脊髄前角シナプス伝達への作用機序をホールセル・パッチクランプ法により解析した。 幼若ラット (7~15日齢)の脊髄横断スライス標本を用い、パッチクランプ記録 (電位固定法)は、赤外線システムを備えた顕微鏡を用いてテレビモニター下に第IX層から行った。H2O2 (1 mM、5分)投与により、微小興奮性シナプス後電流 (mEPSC)の頻度はコントロールの163%に増加したが、その後は減少に転じ、H2O2投与終了後10分でコントロールの52%であった (振幅は不変)。mEPSC頻度増加はN型電位依存性Ca2+チャネル (VGCC)阻害薬、リアノジン受容体 (RyR)阻害薬、イノシトール3リン酸受容体 (IP3R)阻害薬により抑制された。特に、IP3R阻害薬では頻度減少も抑制された。以上から、H2O2は興奮性シナプス前終末に直接作用し、N型VGCC、RyR、IP3Rの活性化を介してグルタミン酸放出を増強させることが示された。一方、H2O2によるmEPSC頻度減少はGABAA受容体阻害薬により抑制された。 GABA作動性微小抑制性シナプス後電流の頻度は、H2O2によりコントロールの648%へ増加し、投与終了後も持続した (223%)。この変化はIP3R阻害薬で抑制された。よって、H2O2は抑制性シナプス前終末にも直接作用し、IP3R活性化を介してGABA放出を増加させることが示された。GABAの過剰放出はグルタミン酸放出を抑制していたことから、「グルタミン酸毒性」に対する防御機構と捉えることができる。よって、N型VGCC阻害薬やRyR阻害薬は、GABAの保護作用を損なうことなく、H2O2により惹起されるグルタミン酸毒性に対する効率的な神経保護効果を期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
活性酸素の一つである過酸化水素が脊髄前角運動ニューロンのシナプス伝達に与える影響および、その機序を明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、過酸化水素によるシナプス伝達への影響は明らかとなったが、細胞興奮性や膜特性に与える影響に関しては未だ不明である。よって、電流固定法でホールセル・パッチクランプ記録を行うことで、さらに詳細な検討を行う予定である。 また、平成27年度の結果から、N型VGCC阻害薬またはRyR阻害薬投与により、GABAによる神経保護作用を損なうことなく、H2O2によるグルタミン酸の過剰放出を選択的に抑制することが可能となり、効率的な神経保護効果を期待できる。よって、N型VGCC阻害薬やRyR阻害薬による神経保護効果を、脊髄損傷モデルラットを用いて免疫組織学的、行動学的実験により検討する予定である。 平成27年度の予算執行に関しては、電気生理学的実験に使用していた機器に不具合が生じ、新たに購入せざるを得なかった。平成28年度予算は前述の実験に必要な実験動物や薬品などの消耗品の購入に使用する予定である。また、国内外の学会参加や、論文投稿の費用にも使用予定である。
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Research Products
(4 results)