2017 Fiscal Year Research-status Report
エピジェネティクスを通じた術後認知機能障害の発症の機序解明
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15K20051
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
立花 俊祐 札幌医科大学, 医学部, 研究員 (30737309)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 術後認知機能 / トランスクリプトーム解析 / 手術ストレス / セボフルラン / デクスメデトミジン |
Outline of Annual Research Achievements |
術後認知機能低下の機序解明と、その予防を目標に掲げて研究を進めている。 具体的にはセボフルラン暴露とセボフルラン暴露下での手術ストレスを加えた高齢マウスが、術後どのような行動変容を起こし認知機能低下を呈するのか、また行動変容と脳内とくに海馬における遺伝子発現変化との関連性・相関性を研究している。 セボフルラン暴露と手術ストレスを加えたマウスの海馬のRNAを抽出し、介入前後において変化が著しいと判断できる、標的遺伝子を同定することができた。この結果に関しては、麻酔科領域での研究においてはほとんど発表されていない内容であり、2017年度のアメリカ麻酔学会において発表することができ、大きな反響を呼んだ。われわれの知見は、今後やっていくであろう脳内でのパスウェイ解析に大いに役立つものという確信を得た。 また、Maze試験を使用した術後の認知機能の測定と、実際の脳内での遺伝子発現変化の結果を組み合わせることによって、手術後の”ボケ”と言われるような術後認知機能障害の機序解明と、予防のための介入方法を少しずつではあるが明らかにできると考えている。 近い将来の目標としては、麻酔科医が実臨床の場で多用するデクスメデトミジンを、術後認知機能低下の予防薬または改善薬として使用できないかどうか検討解析する予定であり、この点をメインテーマとして研究を推進する予定である。 デクスメデトミジンは、各臓器において組織の保護作用や機能維持に寄与すると報告が散見されており、われわれの研究を完結させるために、非常に妥当性の高いものであると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究でのトランスクリプトーム解析より、高齢手術マウスモデル海馬でのRNA変化を網羅的に解析・評価することができ、これらの結果は新規に発見された有益な情報であった。特に、神経変性疾患に関与するとされているMaptに注目することができた。 また、デクスメデトミジンは、セボフルラン麻酔下での手術侵襲による認知機能低下を減弱し、かつ、高齢手術マウスの海馬におけるMapt発現を抑制することを発見した。 本研究を通して、POCD発症時のmRNA(メッセンジャーRNA)変化を明らかにすることにより、機序解明の一端に迫ることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
Maptなどのいくつかのカギとなる標的遺伝子を同定することができた。 今度は、Mapt以外に鋭敏に反応または関与するものを選定し、POCDとの関連を精査していく予定である。 また、今回は吸入麻酔薬をセボフルランにしていたが、本邦で使用されているデスフルランに関しても、同様の実験系を用いて、脳内mRNAの変化を中心に精査していきたい。吸入麻酔薬の違いによる、mRNA変化とPOCDの表現形の違いを調べていく必要がある。
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Causes of Carryover |
前年度の実験計画が順調に進み、予定使用額に達する前に、当該年度の研究成果を出すことができた。残りの実験を進めるにあたり、前年度の助成金を使用する予定である。 最終年の交付にあたっては、ヒトにおいてもこれらの標的遺伝子の増減が、POCD予測マーカーとなり得るか検証していきたい。
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Research Products
(1 results)