2017 Fiscal Year Research-status Report
吸入麻酔薬によるPer2発現抑制機構の解明-ICU症候群の機構解明を志向して-
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15K20062
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
肥後 心平 日本医科大学, 医学部, 講師 (50623922)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 全身麻酔 / セボフルラン / 時計遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は, 手術後に見られる睡眠・覚醒リズムの障害やせん妄などの原因として, 全身麻酔薬による脳内の遺伝子発現変動が想定されることを背景としている. 近年の我々の研究から, 手術に頻用される全身麻酔薬セボフルランが, 視床下部視交叉上核において24時間の周期的発現を示し概日リズムを作っている時計遺伝子のひとつであるPer2の発現変動と, 周期のずれを引き起こすことを明らかにしたが, 本研究はこのセボフルランによる遺伝子変動のメカニズムを明らかにすることにある. 我々の研究では, ラットの脳から単離した視交叉上核を試料として用いていたため, 試料採取の効率やばらつきに問題が生じていた. そのため研究効率化のために 1) 不死化細胞株の樹立と, 2)その細胞株を用いた観測系の構築, 3) それを用いた薬理・生化学解析を予定していた. 平成28年度までに, Per2発現に応じたルシフェラーゼレポーターをもつ細胞株の樹立と, それを観測するシステムの構築を行っており, その一部を論文として報告した(Nagamoto et al. 2016)が, 28年度広範より観測系の不安定化が生じたため, 29年度はその安定化のための過去研究の再現実験と, 安定化ができなかったときのため並行して副課題を設定し研究をおこなった. 観測系の安定化は再現実験, メーカー技術者とのサポート等が奏功せず, 29年度後半より, 副課題として設定したc-fos遺伝子発現をマーカーとしたセボフルランの投与が惹起する神経活性領域の全脳マッピングに軸足を移して解析を行い, これらからカジェハ島をはじめとする複数のセボフルラン応答脳領域を同定し, その一部を学会発表した(第123回解剖学会).
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績の概要に記したとおり, 平成28年度までに, Per2発現に応じたルシフェラーゼレポーターをもつ細胞株の樹立と, それを観測するシステムの構築を行っており, その一部を論文として報告した(Nagamoto et al. 2016). また, それに先立つかたちで, ラットの単離視交叉上核を用いた研究で, セボフルランの投与によるPer2発現の抑制が, GABA受容体(A, B 両サブタイプ)を介したものであることを明らかにして論文発表しており, ここまでの結果は当初の予定をクリアするものであった. 測定機器の不調により測定データが不安定となり, 29年度後半より, 副課題として設定したc-fos遺伝子発現をマーカーとしたセボフルランの投与が惹起する神経活性領域の全脳マッピング を中心に研究を推進することとした. これは, いままで研究標的を視交叉上核に絞って詳細な解析を行ってきた一方で, 広範な脳領域におけるセボフルランの影響を記述したデータが不足していたためであり, セボフルラン応答性能領域の同定後に視交叉上核に加えてそれらの領域の遺伝子発現を詳細解析するための足がかり的研究であると言える. この研究で, 嗅覚系の伝導路に関与するカジェハ島を中心に, 内側手綱核や台形核等, 複数のセボフルラン神経核を同定して学会発表を行い, 一定の成果が得られたと言える. しかしがら, 機器不調により当初の視交叉上核の詳細解析が行えなかった点, 副課題を論文として発表するには30年度前半までかかることが予想される点を考えると, 総合してやや遅れていると自己判断するに至った.
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Strategy for Future Research Activity |
測定機器の安定化に関しては, 大幅な改良等が必要となることが予想されるが, これは当初申請していた研究費では遂行が難しいと判断し, 中止することとした. 副課題として設定して遂行してきた研究にであるセボフルラン応答性能領域の同定では, 途中経過を学会発表する状況まで一定の成果が挙がっているため, 平成30年度中にこの課題を論文化することを目標として研究を行う. セボフルラン投与試料に関してはすでに試料採取と解析が8割程度終了しているため, 30年度前半までに残りの解析を行って論文のかたちで成果をまとめる予定である.
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Causes of Carryover |
平成28年度の期末より機器の不調により安定した計測ができない状況にあった. 29年度は計測系の安定化と, 一部内容を変更した研究を並行して行っていた. 機器の不調原因の究明等にかかる時間などから, 29年度広範は内容変更した研究に軸足を移し, 結果がでつつあるが, 研究成果の主となる論文投稿にはまだ至らない. 論文投稿費, 校閲費, 追加実験費用等を30年度に計上する.
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Research Products
(1 results)