2015 Fiscal Year Research-status Report
哺乳類の初期胚発生におけるアミノ酸受容体の機能解明と卵子老化予防への応用
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15K20134
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
西園 啓文 富山大学, 研究推進機構研究推進総合支援センター, 助教 (10502289)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 卵子老化 / 卵子品質 / ゲノム編集 / アミノ酸受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
加齢に伴う卵子や受精卵の品質の劣化(卵子老化)は、晩婚化が進む現代において、非常に重要な研究テーマの一つであるが、その原因となる因子や予防法は十分にわかっていない。平成26年度までの若手B研究によって、①受精卵膜上でCl-イオンチャネルとして働くグリシンレセプターが新たな因子の一つであること、②マウス・ウシ受精卵へのグリシンレセプター作動薬の添加による胚発生率向上効果を明らかにしてきた。そこで本研究では、グリシンレセプター欠損モデルの作製、光遺伝学的手法による強制的なCl-イオンチャネルの開口実験などを行うことで、グリシンレセプター作動薬の胚発生率向上効果メカニズムの解明と応用を検討することを目的として、研究を行った。 平成27年度はゲノム編集に必要なフェムトジェット(マイクロインジェクション用機器)を購入し、計画に必要なゲノム編集を実施できる体制を整えた。この機器が高額であったため、平成27年度に前倒し申請を行っている。また、平成26年度までの研究で哺乳類胚発生への影響を明らかにしていたグリシンレセプターの発現プロフィールを詳細に調べたところ、卵子から受精卵、胚盤胞までの期間で発現しているグリシンレセプターは、特定のサブユニットのみであることがわかった。これは今までに明らかにされておらず、本研究独自の成果である。さらに胚盤胞期胚での免疫染色の結果、グリシンレセプターは胚全体の細胞において、細胞膜に局在している可能性が示唆された。 現在、これらのグリシンレセプターの卵子や胚に特異的に発現しているサブユニットの機能を欠損させるために、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集を開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度はゲノム編集に必要なフェムトジェット(マイクロインジェクション用機器)を購入し、計画に必要なゲノム編集を実施できる体制を整えた。この機器が高額であったため、平成27年度に前倒し申請を行った。 また、前年度までの研究で哺乳類胚発生への影響を明らかにしていたグリシンレセプターの発現プロフィールを詳細に調べたところ、卵子から受精卵、胚盤胞までの期間で発現しているグリシンレセプターは、α1、α4、βサブユニットのみで、α2、α3サブユニットは発現していないことがわかった。さらに胚盤胞期胚での免疫染色の結果、αサブユニットは胚全体の細胞において、細胞膜に局在している可能性が示唆された。今回、免疫染色に用いた抗体はαサブユニットすべてに交差する可能性があるため、α1およびα4サブユニットのみに反応する抗体でさらに解析する予定である。 さらに、平成27年度中にグリシンレセプターα1およびα4サブユニット、βサブユニットを機能欠損させるゲノム編集用のgRNAを設計し、その効果を確認する実験を開始した。 これらの進捗状況から、本年度は「おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、「現在までの進捗状況」の項でも述べたように、特異抗体を用いたグリシンレセプターα1およびα4、βサブユニットのタンパク発現解析を実施するとともに、下記の2つのサブテーマを中心に実施する。 (2)CRISPR/Cas9を用いたグリシンレセプターα1およびα4、βサブユニット欠損モデル受精卵の作製と胚発生の解析:H27年度に引き続き、オフターゲットの少ない最適なα1およびα4、βサブユニットのgRNAを作製し、それぞれCas9 mRNAとともにマイクロインジェクション後、①in vitroでの体外培養を行い、初期胚発生への影響を検討する。また、②偽妊娠誘導を行った仮親マウスに胚移植を行い、着床後発生への影響も確認する。 (3)内因性のグリシンレセプターを欠損し、代わりにレーザー光依存的に塩化物イオンチャネルを開口することができるハロロドプシンを発現したモデル受精卵を作製し、人為的な塩化物イオンの流入で胚発生を制御できるかどうかを確かめる:グリシンレセプター作動薬の卵子老化対策への応用検討を行うには、塩化物イオンチャネルとしてのグリシンレセプターを制御することで、発生現象をコントロールすることができるかどうかを検証する必要がある。そこで、黄色光依存的に塩化物イオンチャネルを開口し、細胞内に塩化物イオンを流入させることができるハロロドプシンを発現している受精卵に、上記(2)で確立したGlyR欠損を導入し、「内因性のGlyRを持たずに、人為的に塩化物イオンチャネルをON/OFFすることができる受精卵」を作製する(Halo Tg/GlyR KO受精卵)。このHalo Tg/GlyR KOモデル受精卵を使い、任意のタイミングで、レーザー光の刺激で塩化物イオンを人為的に細胞内に導入(あるいは導入停止)し、初期胚発生がどのように変化するかを調べる。
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Causes of Carryover |
平成27年度中にゲノム編集に必要なフェムトジェット(マイクロインジェクションに使う機器)を購入したが、実施計画に必要な試薬やマウスが足りなくなると予測されたため、前倒し請求を実施した。その際に発注が次年度になったものや、試薬等でキャンペーン価格のように値下がりしたものがあったため、74,770円の次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度はグリシンレセプターα1およびα4サブユニットのそれぞれに特異的に反応する抗体を用いた免疫染色や、CRISPR/Cas9を用いたゲノム編集を実施する予定である。これらは、すでに準備をしているが、グリシンレセプターα1およびα4サブユニット特異抗体、それにin vitro transcriptionに必要な試薬類が非常に高額であり、さらに実施する例数を増やす予定にしているため、当初計画通りの予算が必要になると考えられる。
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