2015 Fiscal Year Research-status Report
胎盤絨毛細胞における分子シャペロン-カルレティキュリンの産生とその細胞機能の解明
Project/Area Number |
15K20156
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
山本 円 和歌山県立医科大学, 医学部, 学内助教 (70596973)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 胎盤 / 絨毛外栄養膜細胞 / カルレティキュリン / 分子シャペロン / 妊娠高血圧症候群 |
Outline of Annual Research Achievements |
妊娠初期における胎盤形成において、絨毛外栄養膜細胞Extravillous trophoblast (EVT)が重要な役割を果たす。EVTの浸潤が不十分であると、妊娠高血圧症候群(PIH)などの疾患をきたすと言われている。近年、妊娠とともに血中濃度が増加し、妊娠高血圧症候群に関連する分子として小胞体分子シャペロンであるカルレティキュリン(CRT)が報告されたが、胎盤におけるその生理的意義は未だ明らかではない。本研究では胎盤におけるEVT浸潤に着目し、EVTにおけるCRTの細胞機能について解析した。まず、3つの絨毛癌細胞株BeWo、Jar、JEG3、ヒト不死化絨毛細胞株HTR8/SVneo細胞、および正常ヒト胎盤組織におけるCRTの発現解析を行ったところ、いずれにおいてもCRTが高発現に認められた。EVTにおけるCRTの役割を検討するため、EVTモデルとしてHTR8/SVneo細胞を用い、CRT-shRNA発現ベクターを導入しCRT低発現安定細胞株を作製した。HTR8/SVneo細胞においてCRT発現抑制は細胞のマトリゲル浸潤能を著明に低下させ、CRTはEVT浸潤に促進的に働くことがわかった。CRT発現抑制による浸潤能低下の要因として、インテグリン(Itg)β1の機能低下による細胞外基質フィブロネクチンへの接着能低下、および接着後のシグナル伝達の減弱があると考えられ、現在もなお解析を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究で、各種の絨毛癌細胞株やヒト不死化絨毛細胞株、正常ヒト胎盤組織のいずれにおいてもCRTが高発現していることを見出した。EVTモデルとしてヒト不死化絨毛細胞株HTR8/SVneo細胞を用い、CRT-shRNA発現ベクターの導入によりCRT低発現細胞株を樹立した。In vitro細胞浸潤能の解析の結果、CRT発現抑制は細胞のマトリゲル浸潤能を低下させることが明らかとなり、CRTはEVT浸潤に促進的に働いていることがわかった。また、CRT発現抑制による浸潤能低下の分子機構については、Itgβ1による細胞外基質接着機構への影響を中心に解析を進めている。上記のように、CRT低発現絨毛細胞の作製に成功し、CRTの細胞機能についての解析を当初の実験計画通りに進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)H27年の研究を鋭意継続する。(2)CRTがEVT浸潤に促進的に働くことがわかり、CRTの低発現がEVT浸潤不全を来すと予想される。どのような細胞ストレス下でCRTの発現抑制が生じるかを検討することが、胎盤形成不全を基盤とするPIHの病態解明につながると考える。絨毛細胞株を用い、酸化ストレスや小胞体ストレス、低酸素環境などのCRT産生への影響について検討を行う。(3)CRTは小胞体に局在する分子シャペロンであるが、細胞外や細胞膜に存在するCRTも報告されており様々な細胞機能の制御に関わるとされている。H27年の研究において、絨毛細胞株を用いた実験により単純培養状態でCRTが細胞外分泌されていることが判明した。しかしながら小胞体ストレス負荷によるCRT細胞外分泌の増減を認めず、実験を終了している。(4)当初の実験計画に示す通り、当該医療機関において得られた正常およびPIH症例の胎盤組織を用いて、絨毛細胞のCRTや種々の分子シャペロン、関連する細胞接着分子などの発現量などについて病理学的、免疫組織学的評価を行い、臨床的特徴との関連を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
H27の研究は順調に行うことができた。しかしながら研究成果はまだ十分でなく、H27年の学会出張費は発生せず、余剰金が発生したと考える。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
CRT発現抑制による浸潤能低下の分子機構について、Itgβ1による細胞外基質接着機構への影響を中心に、現在もなお解析を進めている。消耗品購入にあてるのが適切と考えている。
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