2015 Fiscal Year Research-status Report
アンギノーサス群連鎖球菌由来ストレプトリジンSホモログに特徴的な分子特性の解析
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15K20361
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
田端 厚之 徳島大学, ソシオテクノサイエンス研究部, 助教 (10432767)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ストレプトリジンS / 口腔連鎖球菌 / アンギノーサス群連鎖球菌 / 病原因子 / Streptococcus |
Outline of Annual Research Achievements |
ストレプトリジンS(SLS)は、ヒトに対して病原性を示す化膿性連鎖球菌(SPy)が産生するペプチド性溶血因子であるが、その分子特性や作用メカニズムには不明な点が多い。我々は近年、ヒトの口腔内に常在するアンギノーサス群連鎖球菌(AGS)の中でβ溶血性を示すサブグループ(β-AGS)において、SLSのホモログを産生していることを初めて明らかにすると共に、β-AGSの中でもβ溶血性Streptococcus anginosus subsp. anginosus(β-SAA)ではアミノ酸配列の異なる2分子のSLSホモログを産生するという興味深い知見を明らかにした。しかしながら、これらSLSホモログの分子特性の詳細もSPy由来SLSと同様に不明である。そこで本研究では、一般的には非・低病原性菌と認識されているAGSの新規病原因子として注目されるSLSホモログの分子特性や作用メカニズムの解明を目的とし、SLSホモログを組換え体として調製してその分子特性や作用メカニズムを明らかにするという計画で研究を進めている。 本年度の研究では、β-SAAの基準株(NCTC 10713)由来の2分子のSLSホモログのin vitro調製を目指し、SLSホモログおよびそれらの機能型分子への変換に携わると考えられている各因子の組換え体発現系の構築と発現誘導を行った。また、比較対象として、SPy由来の各因子についても検討した。さらに、SLSの構造と作用特性について新たに報告された知見を参考にし、SLSホモログの検出とその機能解析の促進が期待される新たな改変SLSホモログのin vivo発現系も構築すると共に、その改変分子の機能について溶血活性を指標とした評価を行った。本年度に得られた以上の成果を基にして、次年度の計画であるβ-SAA由来SLSホモログの機能解析について引き続き検討を行っていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、β-SAA由来SLSホモログおよびSPy由来SLSの機能型組換え体の調製に関する検討を進めたが、大腸菌発現系を用いたin vitro調製系の検討で、β-SAA由来のSLS前駆体およびその機能型への変換に携わる各因子(SagAs~SagE)の中でSagBとSagDの可溶型発現が乏しく、またSPy由来因子では各因子の発現量が総じて少ない結果となった。よって、この系を用いた目的分子の調製には更に条件検討が必要で想定以上の時間を要すると考えられたので、年度計画の内容を考慮して別のin vivo発現系(Lactococcus lactis発現系)の利用について検討した。この発現系では、SagAsからSagEをコードする各遺伝子をオペロン構造のまま発現ベクターに挿入すると共に、目的分子の検出と精製を容易にすることが期待されるC末にペプチドタグを付加した改変分子発現系を考案した。この系により改変分子の誘導発現には成功したが、恐らく精製時に組換え体の失活が生じ、結果として溶血活性を示す機能型分子の調製には至らなかった。以上を踏まえ、効果的なSLSホモログ組換え体の調製法としてはβ-SAAに備わる本来の産生システムを利用することが得策であるという考えに至り、最終的にはβ-SAAにおいてin vivoでのペプチドタグ化SLSホモログ組換え体の発現系を構築し、さらに血液寒天培養にてβ溶血性を示したことから、改変分子が機能型として産生されていることが確認できた。 以上より、本年度の研究は当初計画の内容だけでは十分な成果を得ることができず、それを受けて現在までの進捗状況を「(3)やや遅れている」としたが、研究過程で見出された問題点の克服が期待される新たな発現系が構築できており、引き続き次年度以降の計画を当初の予定に添って推進できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の平成28年度の推進方策としては、まず平成27年度からの検討内容を継続し、in vivoにおけるSLSホモログ組換え体(ペプチドタグ化SLSホモログ)の機能型分子としての効果的な調製法および精製法を確立すると共に、調製した分子の安定保存条件についても情報を得て、平成28年度の研究計画を遂行するための被検分子の準備を優先的に進める。なお、平成27年度の検討においてペンディングとなっている大腸菌発現系を利用したSLSホモログ組換え体のin vitro調製に関する検討については、未だ不明点が多いβ-AGS由来SLSホモログの活性型分子への変換に関する分子メカニズムを明らかにするための新たな知見が得られることが期待されるので、平成28年度も引き続き検討を進めていきたいと考えている。 SLSホモログ組換え体の準備が完了次第、平成28年度の当初計画に従って、β-SAA由来SLSホモログの細胞障害性に関する各検討、具体的には各動物種(ウマ、ウサギ、ヒツジなど)の赤血球に対する溶血特性の比較検討や、ヒト由来株化培養細胞(ヒト口腔由来細胞株HSC-2やヒト由来単球系細胞株)に対する細胞障害性について、SPy由来SLSと比較検討しながら検討を行う。さらに、ヒト由来株化細胞に対するSLSホモログの細胞障害メカニズムの詳細を明らかにするために、マイクロアレイ解析によるSLSホモログを作用させた細胞の遺伝子発現レベルでの検討や、その解析結果より推測される細胞の様々な応答反応について検討を行う。 以上により、β-SAAの新たな細胞障害因子として注目されるSLSホモログに特徴的な分子特性や作用特性について明らかにすることを目指して検討を行う。
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Causes of Carryover |
3月末に開催された学会出張費などの支払いが現時点で完了していないため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
4月に支払いが完了する予定である。
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Research Products
(1 results)