2015 Fiscal Year Research-status Report
口内炎粘膜疼痛に対する細菌感染の影響と抗菌ペプチドの役割
Project/Area Number |
15K20377
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Research Institution | Kyushu Dental College |
Principal Investigator |
人見 涼露 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (70548924)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 口内炎 / 細菌感染 / 自発痛 / 機械的アロディニア / 抗菌ペプチド / Hamp / Serpina3n / 三叉神経節 |
Outline of Annual Research Achievements |
不適合義歯や矯正装置の使用,口腔がん治療の副作用などにより口内炎が発症すると,口腔粘膜バリアが失われてしまうために組織内への口腔内細菌の感染を許してしまう.粘膜上皮の破壊自体による痛みに加えて,この感染は炎症を引き起こすことから口内炎疼痛を増悪させ,治癒を遅らせると考えられる.しかし,口腔粘膜防御機構やその破綻による口腔疾患発症についての研究は豊富にあるものの,疼痛発症機序については,ほとんど研究されていない.本研究では,口腔粘膜バリアが破壊されている口腔潰瘍モデルラットにおける細菌感染と疼痛との関連性を明らかにし,口腔組織および三叉神経節から分泌される抗菌ペプチドの役割について検討することを目的とした.下歯槽粘膜への酢酸処理により口内炎モデルを作製した.酢酸処理1日目では,粘膜部の軽度の発赤と腫脹がみられ,2日目においては,潰瘍を伴う明らかな口内炎が発症し,自発痛および酢酸処理部位の機械的アロディニアが認められた.また,口内炎部組織中の細菌コロニー数およびプロスタグランジンE2量が増加した.さらに,抗菌薬を飲料水に混ぜて摂取させたところ,口内炎の肉眼的所見(visual score)が減少し,疼痛の抑制が認められた.三叉神経節における,抗菌ペプチドとして知られるHamp (hepcidin antimicrobial peptide)およびSerpina3n (serine peptidase inhibitor A3N)のmRNA量は,酢酸処理2日目において増加した.しかし、抗菌薬投与群では増加は認められなかった.以上の結果より,酢酸処理による口腔粘膜上皮の破壊が感染性炎症を引き起こし,疼痛を伴う潰瘍性口内炎を発症すること,同時に,感覚ニューロンにおいて抗菌作用を持つ遺伝子発現が増強される可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度は,口内炎モデルラットおよび対照群として粘膜バリアの破壊を起こさないCFA炎症モデルを作製し,粘膜の肉眼的評価や疼痛評価および細菌感染の影響を行動学的,組織学的および電気生理学的に検討することを予定していた.実際には,CFA炎症モデルでの実験,無菌BS室での飼育による口内炎疼痛のおよび細胞外電気生理学的手法を用いた三叉神経脊髄路核侵害受容ニューロンの活動性応答の記録についてはまだ遂行には至っていない. 一方で,平成28年度に行う予定であった,口腔粘膜組織内の細菌定量,抗菌ペプチドであるHampとSerphina3nの三叉神経節細胞におけるmRNAの定量,および炎症マーカーとしてのプロスタグランジンE2やブラジキニンの測定に関してはすでに実験が終了している.
以上のことより,達成度は,やや遅れている,と判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,前年度に出た結果を踏まえて,神経由来の抗菌ペプチドに着目して口内炎におけるその役割を検討する予定である.これまでの実験から,口内炎モデルラットにおいて,酢酸処理2日目をピークとして口内炎の増悪と疼痛の発症および細菌感染が認められた.これらは抗菌薬投与にて抑制された.さらに,酢酸処理2日目において,感覚神経での抗菌ペプチド,Hamp, Serpina3nのmRNA量が増加していたことが判明した.このことから,感覚ニューロンにおいてこれらの抗菌ペプチドの遺伝子発現を増強することで,口内炎による細菌感染を抑制して,口内炎レベルや疼痛を抑える働きをする可能性が示唆された.この結果を裏付けるために,これらの抗菌ペプチドを抑制した状態を作製し,口内炎レベルと疼痛,細菌数を検討していく. また,本年度は,得られた結果を国内および国外の学会にて発表し,論文にまとめる予定である. 本研究は,臨床で大きな問題となる口内炎疼痛に着目してそのメカニズムを解明するものであり,口腔内に発症した感覚以上に対する新たな治療法開発に貢献できると考えられる.
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Research Products
(6 results)