2015 Fiscal Year Research-status Report
アロマターゼ遺伝子欠損マウスにおけるシェーグレン症候群様病変と肥満との関連
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15K20597
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
岩浅 亮彦 徳島大学, 大学病院, 医員 (90746025)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アロマターゼ / 慢性炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
涙腺や唾液腺を標的とするシェーグレン症候群は、閉経期以降の女性に好発する自己免疫疾患であり、閉経期前後のエストロゲン産生量の変化が免疫システムの破たんをきたすことで、自己免疫疾患の発症に関与していると考えられてきたが、特定の臓器が自己免疫反応の標的となる詳細な分子メカニズムについては不明のままである。アロマターゼは、エストロゲン合成に必要なステロイド代謝酵素であり、多種多様な生理機能に関わっている。アロマターゼ遺伝子が欠損したArKOマウスは、ヒトでのエストロゲン産生能の低下した状態が再現されており、エストロゲンが免疫システムに及ぼす影響を理解するための有用な動物モデルとして知られている。 肥満の脂肪組織では、マクロファージや好中球、T細胞などの免疫担当細胞の浸潤し、量的または質的な異常から脂肪組織の慢性的な炎症状態を引き起こしている。近年、肥満の脂肪組織でのマクロファージの浸潤増加は、単球の走化性因子であるmonocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)の産生亢進により誘導されることが明らかとなり、脂肪細胞由来の遊離脂肪酸(FFA)とMCP-1をはじめとするマクロファージ由来の炎症関連分子による悪循環が、脂肪の産生する生理活性物質であるアディポサイトカインの産生調節異常を来たし、肥満の慢性炎症や代謝に関与すると考えられている。 本研究では、エストロゲン欠乏による肥満状態を示し、唾液腺にシェーグレン症候群様の炎症性病変が報告されているアロマターゼ遺伝子欠損(ArKO)マウスおよびアロマターゼインヒビター投与マウスを用いて、アロマターゼ欠損・低下によるエストロゲン欠乏状態と、それによる肥満が引き起こす慢性炎症が、涙腺・唾液腺にシェーグレン症候群病変を引き起こす詳細な分子メカニズムについて明らかにすることを目的としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ArKOマウスの涙腺・唾液腺におけるシェーグレン症候群様病変の病態解析として、ArKOマウス唾液腺・涙腺におけるMCP-1の遺伝子発現量について解析を行い、ArKOマウスの内臓脂肪で遺伝子発現の上昇を認めたF4/80、TLR-4、NF-κBといったマクロファージ関連因子ならびに、MCP-1によって肥満脂肪組織中で増加する炎症性のM1マクロファージが産生する炎症性サイトカインや、抗炎症性のM2マクロファージが産生する抗炎症性サイトカインの涙腺・唾液腺での遺伝子発現量についても、リアルタイムRT-PCRで遺伝子発現解析を行った。加えて、これらの各種関連因子、サイトカインのタンパクレベルでの発現についてもELISA、ウエスタンブロットを用いて解析を行った。 また、ArKOマウスおよびWTマウスの涙腺・唾液腺切片を用いて、MCP-1、F4/80、TLR-4の免疫染色を行い、それぞれの各種関連因子、サイトカインの発現パターンの違いについて解析を行った。 さらに、ArKOマウスの骨髄細胞におけるマクロファージへの分化能および分化したマクロファージの機能についての解析として、ArKOマウスとWTマウスの骨髄から回収した骨髄細胞にM-CSFを添加し、マクロファージへ分化誘導を行い、分化したマクロファージの細胞数を測定した後、フローサイトメータにて回収したマクロファージ中のM1マクロファージとM2マクロファージの細胞数の割合について解析を行った。アロマターゼインヒビター投与マウスの骨髄からも骨髄細胞を回収し、同様に検討を加えた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策としては、ArKOマウス脂肪細胞と健常マウス骨髄細胞から分化させたマクロファージの共培養がマクロファージに及ぼす影響についての解析として、ArKOマウスとWTマウスより回収した脂肪細胞とWTマウス骨髄細胞から分化誘導させたマクロファージを相互に接触する共培養(接触法)を行い,MCP-1、IL-1β、IL-6、IFN-γ、TNF-αなどの炎症性サイトカインやケモカインの遺伝子発現と培養上清中の分泌タンパク量について解析を行う。また、抗炎症性サイトカインであるIL-10、TGF-β、アディポネクチンなどについても同様に遺伝子発現と培養上清中の分泌タンパク量について解析を行い、ArKOマウス脂肪細胞とマクロファージの共培養による炎症性変化への影響を検討する。 また、健常マウスおよびシェーグレン症候群モデルマウスへのアロマターゼインヒビター(AI)投与による脂肪組織および涙腺・唾液腺における影響についての解析として、 シェーグレン症候群モデルマウスである生後3日目に胸腺摘出術を行ったNFS/sldマウスと健常なC57BL/6マウスに、AI(エキセメスタン)の腹腔内投与を行い、AI投与群と非投与群間での体重および内臓脂肪量、内臓脂肪中および涙腺・唾液腺におけるMCP-1、F4/80、TLR-4、NF-κB、IL-1β、IL-6、IFN-γ、TNF-αなどの遺伝子発現、タンパクレベルでの発現について解析を行う予定である。さらに、ArKOマウスと同様に涙腺・唾液腺切片を用いて、MCP-1、F4/80、TLR-4などの免疫染色を行い、AI投与群と非投与群間でのそれぞれの発現パターンについて病理組織学的解析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
ArKOマウスは不妊のため、ヘテロマウス同士を交配させて繁殖する必要があり、ArKOマウスを効率よく飼育し、有効に使用していくことが本研究の鍵であり、ArKOマウスおよびヘテロマウスの飼育・繁殖については、申請者が担当しその飼育費用については本研究費から計上する予定であったが、以前の研究協力先である徳島大学医歯薬学研究部口腔分子病態学分野からArKOマウスを提供して頂けたため、その飼育に必要であった費用が不要であったことと、購入予定であった試薬や実験器具についても当研究室で代用できるものが発見されたり、口腔分子病態学分野から貸与して頂いたり、試薬を分けて頂くことができたため、予定より経費を削減できたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後の使用計画としては、当初の実験計画ではArKOマウスの涙腺・唾液腺におけるシェーグレン症候群様病変の病態解析を主体としていく予定であったが、シェーグレン症候群モデルマウスである生後3日目に胸腺摘出術を行ったNFS/sldマウスと健常なC57BL/6マウスに、アロマターゼインヒビターの腹腔内投与を行い、アロマターゼインヒビター投与群と非投与群間での涙腺・唾液腺での病態解析を詳細に行うとともに、卵巣摘出術を行ってエストロゲン欠乏したマウスでの唾液腺・涙腺でのシェーグレン症候群様病変とアロマターゼ欠損および低下によるエストロゲン欠乏状態での病態の違いについて検討を行う。また顎顔面領域でみられる慢性炎症病態の一つである変形性顎関節炎(TMJ-OA)についてもエストロゲン欠乏が症状悪化に関与しているとされていることから、ArKOマウスの顎関節におけるTMJ-OA病態の解析も行いたいと考える。
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