2015 Fiscal Year Research-status Report
糖尿病関連歯周炎の重症化機序におけるカルプロテクチンの作用
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15K20621
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
生田 貴久 徳島大学, 大学病院, 医員 (00746563)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | カルプロテクチン / TLR4 / ヒト歯肉線維芽細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
【目的】昨今,最終糖化蛋白AGEsは様々な糖尿病合併症に負の影響を及ぼすことが明らかになり,糖尿病関連歯周炎の重症化にもAGEsが深く関与しているものと推測される。一方,カルプロテクチンは,S100A8とS100A9の蛋白複合体からなる抗菌ペプチドである。また歯周病細菌Porphyromonas gingivalis由来LPS(P-LPS)は好中球のカルプロテクチン産生を誘導する。我々は,歯周炎患者の歯肉溝滲出液中のカルプロテクチン濃度が高値を示し,その知見を指標とした新規歯周病診断の確立を目指している。一方,歯周炎の病態におけるカルプロテクチンの組織への作用は不明な点が多い。そこで本研究では,カルプロテクチンが歯肉線維芽細胞の炎症関連因子発現に及ぼす影響について検討した。【材料及び方法】株化ヒト歯肉線維芽細胞(HGF)はDMEM を用いてサブコンフルエントになるまで培養後,リコンビナントS100A8,S100A9,カルプロテクチンを添加し,経日的な培養上清中のMCP-1,IL-6,VEGF,及びproMMP-1 濃度を市販の各種ELISA キットを用いて測定した。また,TLR2,TLR4 mRNA 発現はRT-PCR 法を用い調べた。【結果及び考察】S100A8,S100A9およびカルプロテクチン添加により,HGF のMCP-1,IL-6,proMMP-1 産生が有意に増加した。一方,VEGF 産生はs100A8, s100A9 添加により増加したが,カルプロテクチン添加では増加しなかった。また,NF-B 阻害剤によって,これらの炎症関連因子の産生は有意に抑制された。TLR4mRNAの発現はP-LPS 刺激で増加したが,TLR2mRNA は検出されなかった。【結論】カルプロテクチンは歯周組織の炎症を亢進する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、増殖活性に及ぼす影響の検討②カルプロテクチンによって活性化する細胞内シグナル伝達系の検討③RAGE発現の及ぼす影響及びシグナル系の探索する予定であった。①については、Kwonらの文献を参考にして50nMのカルプロテクチンを細胞に作用させ、その細胞刺激濃度の適正について確認・検討を行った結果、細胞障害作用は認めなかった。②については、カルプロテクチンで刺激した歯肉線維芽細胞は陰性対照と比較して、カテプシンLの発現を亢進した。③については、歯肉線維芽細胞は、口腔上皮細胞と比較して、TLR4 mRNAを有意に発現したが、RAGE mRNAはほとんど発現しなかったため、RAGEではなくTLR4に着目し、si RNAを用いた実験を行った。TLR4遺伝子のノックダウンは、通法に従いTLR4 siRNAを歯肉線維芽細胞に遺伝子導入して行った。陰性対照と比較して、カルプロテクチンによるp38MAPK, JNK, ERKおよびIkBαのリン酸化が抑制されることを認めた。これらの結果および28年度検証予定である④炎症性サイトカインの産生性に及ぼす影響及びシグナル系の探索においても、カルプロテクチンは陰性対照やS100A8と比較してMCP-1,IL-6, proMMP-1の産生を有意に亢進すること、カルプロテクチンによるIL-6産生は、ERK,p38MAPKおよびIkBαのシグナル阻害によって有意に抑制された。またカルプロテクチンによるMCP-1産生は、JNK,p38MAPKおよびIkBαのシグナル阻害によって有意に抑制されることを確認しており、順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度(28年度)では、糖尿病関連歯周炎の重症化におけるカルプロテクチンの作用を探るために,27年度で明らかになった実験結果を踏まえてカルプロテクチンで処理された細胞に対するAGEsの増強作用の検討するために、細胞のRAGE発現におけるカルプロテクチンによる制御の結果を踏まえて,カルプロテクチンで前処理した細胞に対して調製したAGEs(濃度:0~100 uM)を添加した後の細胞反応を調べる。AGEs刺激による細胞反応は,プロテアーゼ群及び炎症性サイトカインの産生性を指標にしてELISA法を用いて検討する。想定として,AGEsの増強反応が捉えられると考えている。実験の対照として,カルプロテクチンによる前処理を行わないAGEs単独刺激の系を加える。なお,上記2.で捉えた細胞内シグナル伝達分子を参考にして,それらの特異的阻害剤を添加した実験系を加えて,同様に検討する。
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Causes of Carryover |
27年度使用したELISAキット、およびリコンビナント等の価格変動のため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
計画は順調に進んでおり、28年度引き続き使用予定である
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