2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K20835
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
秋山 正和 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (10583908)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 平面内細胞極性 / 数理モデル / 数値計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々,人の体表面には“毛”があり,特定の方向への流れを見ることができる.表層は細胞が平面的に並ぶことで構成されるが,この際細胞内で毛の方向を決定する分子の配向性がまるで磁石のように極性を持ち,さらにその方向性が揃う現象が起こる.これを平面内細胞極性と呼ぶ.この毛の流れは,魚の鱗,鳥類の羽毛の流れとも関係があり,古くから研究されている.山崎正和准教授(秋田大医学専攻)との共同研究を行い,私はハエの体表面の翅毛(しもう)パターンを司る分子の動態を数理モデル化することで,平面内細胞極性に潜む問題を解明しようとしている.現在までに我々の構築した数理モデルにより,実際の翅毛パターンを忠実に再現することができた.逆に,数理モデルから翅毛パターンが阻害される条件を予測し,実際のハエに対し実験を行った結果,数理モデルによって導出された結果と一致し,数理的に予測された結果が実験によって正しいと裏付けられたこととなった.2005年,K. Amonlirdviman氏等は雑誌ScienceにPCPに関する数理モデルを発表しているが,着目する分子数が非常に多いために式の数は10を超えており,さらにそれらの数式には未知のパラメタが非常に多く含まれている.このため,数学的な解析が非常に困難であるばかりでなく,「何がPCPにとって最も重要な機構なのか」という本質的な問に答えることができていない.今年度はこの問題に関して重点的に数理解析を行った.さらに,力場環境とカップルさせた新しい数理モデルを構築することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
K. Amonlirdviman氏等の提案した数理モデルに関して,重点的に研究を行った.彼らのモデルはDsh, Pk, Fz, StbmなどのPCPのコア蛋白とその複合体に着目して構築された数理モデルであり,10変数以上の反応拡散方程式系となっている.また,式中のパラメータに関しては,直接の値は記載されておらず,大まかな範囲として記載されている.さらに式の中で使用されている拡散に関する作用素も,通常とは異なる意味で用いられていることが判明した.また,数値計算の離散化では,正三角形を用いた有限要素的なメッシュ分割が行われているが,メッシュ数は固定値で非常に少ない要素数であり,現実的な拡散を表現するために適切ではないと考えられた.以上のことから,直接的に手計算で解析を適用することはほぼ不可能であると断定した.そこで,彼らのモデルを今後,解析的に取り扱うためには,(1)適切なメッシュの作成,(2)パラメータ同定,が必須であるとの結論を得た.そこで,(1)では,要素数可変のメッシュ生成アルゴリズムを構築した.一方(2)に関しては,パラメータ同定のための適切な条件を定める必要がある.実際の実験系では,コア蛋白が正常に機能する場合は,単一細胞でも極性の形成が行われるため,「Fz, Stbmが局在パターンを作る」という条件を課した.この条件のもと,40程度パラメータ空間を探索したが,Fz Stbmの局在パターンを得ることができなかった.パラメータの探索アルゴリズムが不適当であった可能性を否定できないものの,少なくとも文献値に記載されたパラメータ範囲では計算結果を再現することができなった.
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Strategy for Future Research Activity |
彼らの数理モデルに関して,予備的に以下のような数学的な考察を行った. (考察1):初期のDsh, Pk, Fz, Stbmは正数であるが,その他の蛋白量は0である. (考察2):少なくともFzに関して,初期の最大濃度よりも終状態の最大濃度の方が高い. (考察3):考察1と考察2を両方満足するためには,(3)拡散係数が位置に依存する.または(4)移流拡散型の方程式でないとならない.しかしながら,(3)に関しては論文では記載がなく,(4)はそもそも仮定されたモデル系ではない. 以上から,K. Amonlirdviman氏等のモデルに関しては,論文に記載されていない方法論を用いて計算が行われている可能性が非常に高いことがわかった.K. Amonlirdviman氏等のモデルを縮約することに関しては,パラメタの観点および考察から,論文に記載された結果を再現することが論理的に困難であることが判明した.そこで,最終年度では,縮約することに捕らわれず,現在構築している4変数系を拡張することで,K. Amonlirdviman氏等のモデルへ帰着できるかに関して研究を行いたい.具体的にはFz, Stbmの分子動態に着目した単一細胞の極性形成に関する偏微分方程式系に着目する.これらはK. Amonlirdviman氏等以外の研究グループも提案しており,その数理解析結果が近年発表されつつある.そこで,これらのモデルを我々のPCP研究へ応用する方向を検討している.また,背中のPCP系では,組織全体の流れと毛の方向性に関係があることが実験により証明されつつあり,そのモデルを構築することができた.モデルでは,非圧縮性のStokes流を用いているため,FreeFEM++の計算専門家と研究打合せを行う予定である.
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Causes of Carryover |
予定していた旅費が若干安くなり,余剰金が発生したため. 30年度に旅費として使用する計画である.
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Research Products
(2 results)