2015 Fiscal Year Research-status Report
巨脳症-毛細血管奇形症候群におけるPI3K/AKT経路の網羅的解析とその制御
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15K20911
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
塩浜 直 千葉大学, 医学部附属病院, 助教 (10737034)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | PI3K/AKT経路 / ヘッジホッグ経路 / 巨脳症 |
Outline of Annual Research Achievements |
巨脳症-毛細血管奇形症候群(Megalencephaly-CAPillary malformation、MCAP)は、PI3K/AKT経路の遺伝子異常により巨脳症、結合織の異常、手指の数的異常を来す先天奇形症候群である。出生後も中枢神経の異常増殖は続き、外科手術を要する高度な水頭症を高率に合併するが、現時点で組織増殖を抑制する特異的な治療薬はない。またAKT3、PIK3R2、PIK3CA遺伝子のミスセンス変異により、PI3K/AKT経路の恒常的亢進が生じることが同疾患の原因と推定されているが、経路亢進の詳細な分布は不明である。また手指の数的異常では一般的にヘッジホッグ経路(Hh経路)が関与することが知られており、PI3K/AKT経路とHh経路に相互作用があると予想した。本研究の目的は、AKT3変異によるPI3K/AKT3の下流経路やHh経路などの活性化の分布を解析し、分子標的治療の標的部位となる経路を特定することである。 PI3K/AKT経路とHh経路の相互作用について培養細胞で評価し、PI3K/AKT3経路の亢進がHh経路を抑制することを初めて確認した。さらにMCAPの遺伝子解析が可能な体制を構築した。採取した静脈血中のリンパ球からゲノムDNAを抽出し、疾患パネル(Trusight Oneシーケンスパネル)及び次世代シークエンサー(Miseq,Illumina)を用いた網羅的遺伝子解析が可能となり、すでにMCAP近縁疾患の患者の遺伝子解析を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PI3K/AKT経路とHh経路の相互作用について培養細胞で評価し、PI3K/AKT3経路の亢進がHh経路を抑制することを初めて確認した。具体的にはC3H10T1/2細胞に、恒常的活性型のAKT3発現ベクター(Myr-AKT3)を一過性強制発現させ、リコンビナントヘッジホッグまたはSMO刺激薬(SAG)によるHh経路の刺激を行い、GLI特異的結合部位をプロモーター領域にもつレポータープラスミドを用いたルシフェラーゼアッセイによりHh経路活性を評価した。何れの刺激によるHh経路活性の亢進も、PI3K/AKT経路の活性化により強く抑制された。同様にreal time RT–PCRでもPI3K/AKT経路の亢進により、GLI1・PTCH1bなどのHh経路標的遺伝子の発現の抑制が確認された。 次にPI3K/AKT経路の亢進が、Hh経路を抑制する機序を明らかにするために、PI3K/AKT経路の下流蛋白であるmTOR、GSK3βに対する阻害剤の影響を評価した。PI3K/AKT活性によるHh経路の抑制効果は、mTOR阻害剤・GSK3β阻害剤のいずれの投与でも不変であり、Hh経路の抑制はPI3K/AKT経路の下流蛋白ではなく、AKTとHh経路構成蛋白の蛋白相互作用の可能性が示唆された。 さらにMCAPの遺伝子解析が可能な体制を構築した。採取した静脈血中のリンパ球からゲノムDNAを抽出し、疾患パネル(Trusight Oneシーケンスパネル)及び次世代シークエンサー(Miseq,Illumina)を用いた網羅的遺伝子解析が可能となり、すでにMCAP近縁疾患の患者の遺伝子解析を開始している。想定外の事としては、既にAKT3遺伝子変異が同定した患者からの皮膚線維芽細胞の樹立を予定していたが、病状の悪化のため皮膚検体の採取の施行ができなくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
培養細胞を用いた解析として、前年度から引き続きC3H10T1/2細胞におけるMyr-AKT3の一過性強制発現を行いPI3K/AKT経路とHh経路の相互作用について解析を進める。具体的には、PI3K/AKT経路の亢進によりHh経路の下流蛋白であるGLIの細胞内分布がどの様に変化するかを免疫染色で確認する。また、Hh経路がPI3K/AKT経路に与える影響を評価するために、ヘッジホッグ刺激によってPI3K/AKT経路の下流蛋白(BAD、GSK3β、mTOR)のリン酸化がどのように変化するかをImmunoblottingで確認する。 次に患者検体と用いた解析として、MCAP近縁疾患と臨床診断している患者の健常皮膚及び病変部皮膚を採取し、各々に由来する皮膚線維芽細胞を樹立することを予定している。樹立した2系統の繊維芽細胞のDNA変異の出現率の違いを次世代シークエンサーによる遺伝子解析で評価する。さらに両者におけるmRNA/microRNAの発現量をチップアレイによる網羅的解析とreal-time RT PCRで測定し、MCAPにおける遺伝子発現のネットワークを明らかにする予定である。
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