2015 Fiscal Year Research-status Report
情報化社会に最適化された自己情報コントロール理論の構築
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15K20914
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
壁谷 彰慶 千葉大学, 人文社会科学研究科(系), 特任研究員 (20571590)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 情報倫理 / 子どもの権利 / 福祉 / ライフストーリーワーク / 個人情報 / プライバシー / アイデンティティ / 社会的養護 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題に関して、3回の研究会発表と内容報告論文(プロシーディングズ)の執筆を以下のように行った。 (業績1)「電子的想起と<忘れられること>の情報倫理-Schoenberger, Delete: The Virtue of Forgetting in the Digital Age (2009)を中心に-」(発表:SITE研究会、H27年5月28日、 論文:信学技法 115(57), 11-16.)では、「忘れられる権利」に影響を与えた文献の検討を通し、電子的想起との関連において、「忘却」が多義性をもつことを指摘した。 (業績2)「アイデンティティ操作としての自己情報コントロール-「アイデンティティ」をめぐる実践的諸問題と情報倫理学とのつながり-」(発表:SITE研究会、H27年11月6日、論文:信学技法 115(295), 1-6.)では、インターネット上の創造的な自己提示と、ライフストーリーワークにおける自己回復との対照性を確認したうえで、後者の考察の意義と諸論点を整理した。 (業績3)「ライフストーリーワーク・自己情報・アイデンティティ-出生情報は児童のアイデンティティにどう関係するか-」(発表:SITE研究会、H28年3月3日、論文:信学技法 115(481), 133-138.)では、ライフストーリーワークの手続きを自己情報コントロールの一種として捉え、「情報カテゴリー」という観点から、児童のアイデンティティを改善する仕組みの分析を試みた。 外部調査として、国立武蔵野学院への4回の調査訪問(2015年9月23日、10月3日、10月31日、12月22日)と、ライフストーリーワークに関する研究会(2016年1月14日、「生活と家族の記録を考える」、POC・市民の力主催、 於江古田ギャラリー古藤)と、社会的養護児童に関連する研究会(2016年2月27日「第6回社会的養護における「育ち」「育て」を考える研究発表会」、於国立武蔵野学院)に参加した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H27年10月に予定していた学会発表と、H27年8月とH28年3月に予定されていた有識者との研究会は、H27年5月(業績1)、同10月(業績2)、H28年3月(業績3)の三回の研究会(発表と内容報告論文)、および、研究会場での談話として行うことになった。 設定した小課題(1)(人格的記述に対する「ケア」の概念分析)は、計画どおり、忘れられる権利に関する研究(業績1)と、ライフストーリーワークに関する研究(業績2、3)のなかで、連続的に行うことになった。後者では、ライフストーリーワークを、(a)導入準備、(b)情報収集、(c)情報提供、(d)内面化、という四段階に分け、それぞれの問題の分析(業績2)と、手順(c)・(d)における出生情報の意義や影響について考察を与えた。 予定では3回としていた国立武蔵野学院への調査訪問は、実際には計4回となり、加えて、ライフストーリーワークに関連した二つの研究会に参加する機会にも恵まれ、結果的に充実した調査を行うことができた。 全体の方針として、本研究課題にとって、ライフストーリーワークに関する諸問題を掘り下げる倫理学的および情報倫理学的意義が高まったため、このワークに関する研究の比重を高めることにした。それゆえ、小課題(2)(対他的な自己情報コントロールとしての「同化」の解明)、(3)(匿名発信によるアイデンティティ形成の社会的影響と適切性条件の明確化)に関する検討は、ライフストーリーワークに関する3回の発表を通じた有識者との意見交換、および、4回の調査訪問のさいの国立武蔵野学院教員(德永健介氏と德永祥子氏)へのインタビューのなかで並行して行うことになった。 また、H28年度の研究協力者として社会学者を人選する予定であったが、ライフストーリーワークの研究を主題化することにしたため、人選を留保し、研究協力者の専門分野を、児童の生育歴情報の管理に接近した分野に変更し、人選している段階にある。
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Strategy for Future Research Activity |
ライフストーリーワークの現状分析を通して、情報倫理学的考察と倫理学的考察とを並行して進める必要性が判明したため、今年度(H28年度)は、予定されていた小課題(2)(対他的な自己情報コントロールとしての「同化」の解明)の従事を、主にライフストーリーワークの手順(a)(導入準備)、手順(b)(情報収集)の研究を中心に通して行うことにする。前者については、インフォームド・コンセントにおける患者の自律性およびパターナリズムとの議論と対比的に、ライフストーリーワークの特徴を確認する。後者については、情報収集と情報管理に関する情報倫理学的問題および制度的問題を、社会的実情を配慮しながら考察を行う予定である。可能な限り、児童の生育歴情報の管理に接近した分野の研究者や実務者(アーキビストなど)への協力を請う予定である。 翌H29年度には、予定通り、小課題(3)(匿名発信によるアイデンティティ形成の社会的影響と適切性条件の明確化)に取り組む。具体的には、忘れられる権利とライフストーリーワークの考察を対比的に踏まえることによって、アイデンティティ管理と自己情報コントロールに関する総合的な考察を与え、報告書にまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
ライフストーリーワークの調査の謝金として使用予定であった「人件費」の申請額のうち、研究協力者の意向により、謝金として使用されなかった額が生じた。また、情報倫理学系研究者との打ち合わせ時の謝金として「人件費」、および、打ち合わせ用の会議室利用費として「その他」の費用を計上していたが、研究協力者の意向により謝金として使用されなかった額が、また、打ち合わせを三回の研究会会場で行ったために会議室利用費として使用されなかった額が生じた。 他方、ライフストーリーワークおよび児童福祉関連の書籍購入費が、予定額よりも上回ったため、上記の未使用額は、部分的に該当書籍購入費として、「物品費」として使用することになった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究全体のなかで、ライフストーリーワークおよび児童福祉関連の資料収集が予定していたよりも比重を占めている現状にあり、H28年度分の請求額では書籍購入費が不足することが予想される。それゆえH27年度の次年度使用額は、当該分野の書籍購入のために、「物品費」として使用する予定である。
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Research Products
(7 results)