2017 Fiscal Year Research-status Report
都市公民館再編の実態とコミュニティ・ガバナンスへのインパクト
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15K20930
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
佐藤 智子 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 准教授 (90632323)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 公民館 / 社会教育 / 生涯学習 / 教育行政 / シティズンシップ |
Outline of Annual Research Achievements |
公民館再編の動向をめぐる継続的な調査を実施した。継続的に訪問調査を実施している自治体の事例について順次分析と考察を行い、国内学会でその成果を報告した。 当該年度は、公民館や関連施設の再編が進行している尼崎市、西宮市について重点的な調査を実施した。尼崎市については平成29年度のあいだに公民館廃止に向けた具体的な議論を開始した。西宮市については、平成30年度に本格的な議論が進められることとなった。この継続的な調査で明らかになってきたのは、公民館を強化する自治体も、廃止する自治体も、コミュニティ・ガバナンスの再構築という同じ目的を持って再編を企図しているという奇妙な現象である。その中で改めて「公民館とは何か」の定義の曖昧さが具体的な課題を伴って顕在化しており、各自治体・政策ごとに様々に解釈されているという実態が明らかとなった。これらの調査を通して、各自治体に設置される公民館の実態としての多義的性質と、制度的な観点から公民館を捉えることの限界が見えてきた。「公民館」を制度的・法的な観点から形式的に定義するのは容易であるが、一方で「社会教育」とは何か、そこでの教育行政との関係をどう捉えればよいのかが同時に問題になる時、社会教育や公民館は容易に教育行政の枠組みを越境する。そのため、公民館再編をめぐり、制度的な定義が意味をなさなくなる状況を観察するに至った。そこで、コミュニティに埋め込まれた社会教育・生涯学習支援施設のあり方を機能的な観点から捉え、コミュニティ・ガバナンスにどのようなインパクトを与えているのかを分析していく必要性が明らかとなってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
「遅れている」理由としては、以下の4点である。 第1に、本研究は、政令指定都市や中核市などの「都市」を対象としているが、大規模自治体においては、全市レベル、区役所レベル、地区・校区レベルと多層的に公民館や関連施設が配置されている場合が多く、教育委員会と市長部局との役割分担や連携・協働の仕組みも複雑であり、1回の調査ですべての情報を収集することが困難であることが明らかとなってきた点がある。 第2に、調査の受け入れに積極的に協力いただける自治体が当初の見込みよりも少なく、よって良好な関係を構築できている少数の自治体に継続的に調査に入るよう方針転換が生じた点である。 第3に、当該事業期間2年目に申請者の所属が変わったことに伴い、全国の自治体調査に赴く際の移動手段や移動経費に変更が生じた点、また当該研究へのエフォートに変更が生じた点が挙げられる。 第4として、当該研究において全国の自治体の動向・実態を調査する中で、研究計画の当初に据えていた仮説に不備があることが徐々に明らかになってきた点である。当初は公民館の制度的な変更がコミュニティ・ガバナンスに影響を与えるというモデルを描いていたが、その制度的な変更そのものはコミュニティ・ガバナンスに影響を及ぼさず、むしろコミュニティ・ガバナンスの実態が公民館の制度変更を促している側面が強く見えてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
申請書においては、政令指定都市や中核市などの「都市」を対象として網羅的な自治体訪問調査を予定していた。しかし、上記の理由を勘案し、研究の推進方策としては、比較に適した対象自治体を厳選し、継続的な調査を実施するような変更を行った。 継続的な調査の対象自治体としては、以下の通りである。 1)政令指定都市:福岡市と仙台市の比較(両市とも拠点館と地区館という多層的な公民館配置を行っており、その中で教育委員会と市長部局(区役所)による役割分担と連携を実現しているが、一方で全市レベルについては、仙台市は教育委員会で、福岡市では市長部局で統括しているという違いがある。) 2)中核市:西宮市と尼崎市の比較(隣接する2つの中核市は、対照的な公民館体制を構築してきた経緯がある。公民館の分館を廃止し縮小した尼崎市では、市長部局を中心として官民を超えたネットワークを構築することで、地区公民館(地区拠点館)と地域コミュニティとの連携・協働を強化してきたが、その延長として制度的な意味での公民館を廃止する動きを進めているのに対して、西宮市では市長部局と教育委員会の連携・協働を前提として、公民館事業の充実化とコミュニティ形成に資する社会教育体制の構築を目指し、組織再編の議論が行われている状況である。 全国の公民館再編の動向を網羅的に整理するのではなく、特徴的な自治体を深く調査することにより、「現代における公民館の在り方、及び各地における今後のコミュニティ・ガバナンスに対する公民館の意義・可能性と課題を示す」という本研究の目的を達成する。
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Causes of Carryover |
(理由) 以下2点の理由による。第1に、初年時に繰越が生じていたためである。第2に、調査対象としている自治体の政策動向に鑑み、当該研究においては平成30年度まで研究を継続することが重要だと判断したため、計画的に次年度使用額を残したためである。 (使用計画) 概ね実態についての情報収集・調査は進められているので、計画通り継続調査を遂行しながら、研究成果のまとめと公表に注力することとしたい。
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