2015 Fiscal Year Research-status Report
多数決型民主主義国家における妥協の政治―20世紀前半のカナダにおける連邦政治過程
Project/Area Number |
15K20937
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高野 麻衣子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (10745673)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地域主義 / 国家統合 / 多数決型民主主義 / 妥協 / 責任政府 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究で取り組むのは、制度的には国内多数派の利益を優先するカナダの議会政治と、民族的にも地域的にも高度に多元的な社会とがいかに調和しうるのかという問題であり、その説明として、1)政党と内閣における地域的・民族的諸利益の均衡代表、2)多数決による最終的な政策決定にいたる過程での、政治的イデオロギーを超えた妥協的な利害調整に注目している。 1)を扱う平成27年度の研究では、政党と内閣における地域的・民族的諸利益の相対化というアイデアを支える思想が、そもそもどのように生まれたのかを明らかにすることを課題とした。歴史学研究の検討により、そうしたアイデアがイギリス植民地時代の1840年代から見られることがわかっているため、この時代の植民地政治、およびそれを主導したイギリス系のロバート・ボールドウィンとフランス系のルイ=イポリート・ラフォンテーヌに関する二次文献を収集し精査した。また、上記アイデアの思想的背景を明らかにするため、夏季休暇中にはカナダの国立図書館・文書館に赴き、ボールドウィンとラフォンテーヌの書簡、および彼らの党派を代表する新聞(The Examiner)の収集と精査を行った。 その結果、異なる民族や地域間の協力関係によって政治を動かすという思想が、彼らの目指した責任政府の獲得や、政治運営を効率化するというプラグマティックな目的のみに支えられたものではなかったことがわかった。実際には、今日のオンタリオ州にあたる地域を代表し、アイルランド系の出自を持つボールドウィンが、今日のケベック州にあたる地域を代表し、カナダ植民地全体では少数派となるフランス系のランフォンテーヌに歩み寄り、異なる地域や民族的利益を党派(政党)や政府内に取り込むこと(inclusion)を理念としていたことが明らかになった。この検討結果は、次年度以降に上記2)の検討につなげる上で有意義な成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の通り、19世紀半ばのカナダ植民地政治、および当時の改革派の運動を主導したロバート・ボールドウィンとルイ=イポリート・ラフォンテーヌに関する二次文献に加えて、カナダの国立図書館・文書館への渡航調査によって、両者の書簡と彼らの党派を代表する新聞(The Examiner)を一通り収集することができた。 その上で、1)一次・二次資料の読み込みを遂行できたこと、2)それによって平成27年度に設定した研究課題の問いに答えが得られたこと、3)次年度に予定している日本比較政治学会年次研究大会での報告の準備を進められたことも、研究の順調な進展の理由として挙げることができる。 また、平成27年度は、本研究課題の土台となるこれまでの自身の研究成果、すなわち、国内の地域的亀裂が顕在化した20世紀初頭のカナダ連邦議会での妥協的な利害調整に関する二種類の論文が掲載にいたったことも、研究の順調な進展を支える理由として挙げることができる。 尚、政策面を扱った論文は日本カナダ学会の『カナダ研究年報』(2015年9月)、制度面を扱った論文は日本比較政治学会の『日本比較政治学会年報(政党政治とデモクラシーの現在)』(2015年10月)所収である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、前年度の研究成果の一部を含めた内容を、2016年6月に開催される日本比較政治学会年次研究大会で報告することが決まっている。 また、本研究課題の仮説検証を進めるべく、実際の政策決定過程における利害調整を検討する。対象となるのは、産業化と都市化に伴う地域間格差の拡大により、地域的な亀裂が顕在化し、特定の地域を代表する第三党の出現を見た1920年代以降の平時のカナダ連邦政治である。具体的には、1)マッケンジー・キング自由党少数派政権期(1921-1926)の主要争点であった関税・鉄道輸送料金・天然資源の管轄権をめぐる議会審議、2)ルイ・サンローラン自由党単独多数派政権期(1948-1957)の主要争点であった社会保障政策・州への平等化交付金をめぐる議会審議である。 1)は研究代表者のこれまでの研究成果の整理と精緻化を行うことを課題とし、4月中に遂行する。2)は、サンローランとこの時代の連邦政治に関する二次文献を夏季までに一通り収集し読み込みを進める。また、夏季あるいは春季に一週間程度の渡航調査期間を得て、カナダ国立図書館・文書間でサンローランの個人文書、および当時の新聞の収集と精査を進める。 その上で、党首の違いや政権形態の違い(単独少数派政権か単独多数派政権か)にかかわらず、政策決定過程において諸利益に配慮した妥協的な利害調整が展開されたのかどうかを検証することを課題とする。
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