2016 Fiscal Year Research-status Report
多数決型民主主義国家における妥協の政治―20世紀前半のカナダにおける連邦政治過程
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15K20937
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Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
高野 麻衣子 共立女子大学, 国際学部, 専任講師 (10745673)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地域主義 / 国家統合 / 多数決型民主主義 / 妥協 / ルイ・サンローラン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、制度的には国内多数派の利益を優先するカナダの議会政治と、民族的にも地域的にも高度に多元的な社会とがいかに調和しうるのかを問いとして設定した。 平成28年度は、多数決による最終的な政策決定にいたる前段階の審議過程に注目した。前年度の検討では、カナダの政党と内閣における民族的・地域的諸利益の相対化というアイデアの思想的背景を、1840年代の植民地政治に遡り検討した。今年度は、この1840年代に萌芽が見られた、異なる民族間・地域間の協力関係によって政治を動かすという考え方が、現代政治にいかに反映されているのかを検討した。 検討事例は、第一に、産業化とともに地域的な亀裂が顕在化したマッケンジー・キング自由党少数派政権期(1921-1926)の主要争点である関税、鉄道輸送料金、天然資源の管轄権をめぐる審議である。そして第二に、キングに代わり党首を引き継いだフランス系かつアイルランド系のルイ・サンローランによる自由党単独多数派政権期(1948-1957)の平等化交付金をめぐる審議である。 キング自由党政権期については、これまで自身が進めてきた研究の整理と精緻化を行い、そのうちの一部を新たな論文としてまとめるための準備をした。サンローラン自由党政権期は、少数派政権であったキング政権と比較検討するための事例として設定した。サンローラン政権期の平等化交付金政策をめぐる審議については、1955年の4月と10月に開かれた連邦と州間での会議、また、その内容を踏まえた、1956年の連邦議会での予算案の審議資料、および当時の新聞記事とサンローランの個人文書をカナダで調査・収集し、帰国後、その検討を進めた。 検討の結果、平等化交付金をめぐっては、従来指摘されてきた連邦・州間関係に加えて、地域間での利害調整の実態、また、それに対するサンローランのリーダーシップを新たに浮かび上がらせることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マッケンジー・キング自由党少数派政権期の政策審議に関する自身の研究の整理と精緻化を夏季までに終えることができた。その後、研究計画の通り、夏季休暇中にカナダの国立図書館・文書館に赴き、ルイ・サンローラン自由党単独多数派政権期の平等化交付金をめぐる審議資料(1955~1956)、また、当時の新聞記事とサンローランの個人文書を調査・収集し、帰国後、内容の検討を進めることができた。 その上で、1)イギリス植民地時代の議会政治を扱った前年度の検討と、1950年代の現代政治を対象とした今年度の検討から、民族的・地域的諸利益を相対化した上で妥協を図るという、カナダ政治の運営の仕方の連続性を見出すことができた点、2)その後の時代の政策審議を検討する次年度の研究の土台づくりをすることができた点、3)これまでの研究成果の一部を、研究計画の通り、日本比較政治学会年次研究大会(2016年6月25日)での報告に反映させることができた点を、研究の順調な進展を支える理由として挙げることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、20世紀前半のカナダ連邦政治過程において、政治的イデオロギーを超えた妥協的な利害調整がなされていたという仮説を立てている。これを検証すべく、平成29年度も、実際の政策決定過程における審議を検討する。 本研究課題の遂行には、1)時代、2)党首、3)政党、4)政権形態が変化した場合にも、広範な利益に配慮した妥協的な利害調整が行われていたのかどうかを明らかにする必要がある。したがって次年度は、今年度に検討したマッケンジー・キング自由党少数派政権、およびルイ・サンローラン自由党単独多数派政権における政策審議過程との比較検討事例として、ジョン・ディーフェンベーカー保守党単独多数派政権(1958~1963)に注目する。検討の対象は、とりわけ地域の利害が密接に絡む社会保障政策と農業改革をめぐる審議である。 夏季までに、ディーフェンベーカーと上記の争点に関する二次文献を調査・収集し、読み込みを進める。その上で、夏季休暇中にカナダへ赴き、政策審議に関する一次資料、およびオンラインで入手することのできないカナダ西部諸州の新聞、また、ディーフェンベーカーの個人文書を調査・収集する。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、交付額を物品・旅費に充てて計画的に使用した。その結果、次年度使用額として1,595円が生じた。この額を繰り越すことにしたのは、次年度の交付額と併せて図書の購入に充てる方が、交付金の有意義な使用になると判断したためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額の1,595円は、次年度交付金と併せて図書の購入に充てる。
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