2017 Fiscal Year Research-status Report
多数決型民主主義国家における妥協の政治―20世紀前半のカナダにおける連邦政治過程
Project/Area Number |
15K20937
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Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
高野 麻衣子 共立女子大学, 国際学部, 専任講師 (10745673)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地域主義 / 国家統合 / 多数決型民主主義 / 妥協 / 単独多数政権 / ジョン・ディーフェンベーカー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、制度的には国内多数派の利益を優先するカナダの議会政治と、民族的にも地域的にも高度に多元的な社会とがいかに調和しうるのかを問いとして設定した。その際、国内の多様な利益を特定のイデオロギーに収斂させることなく、利益間の妥協を見出す政治が展開されてきたという筆者の仮説をもとに、平成29年度は以下の検討を行った。 検討対象は、自由党から政権を奪還したジョン・ディーフェンベーカー進歩保守党単独多数政権(1958-1962)の政策決定過程であり、とりわけ、同政権下の農業政策と社会保障政策に注目した。その際、単独少数政権であれば他党や他の利益との間での妥協が生まれやすいと考えられるが、単独多数政権で、尚且つ政権政党が代わった場合にも、妥協的な利害調整がなされるのかどうかを検討事項とした。 夏季休暇までに、ディーフェンベーカーの伝記を中心に二次資料を収集し、読み込みを進めた。夏季休暇中には、カナダのサスカチュワン大学に赴き、同大学が所有するディーフェンベーカーコレクションから政治家の個人文書、および進歩保守党の刊行物、連邦・州首相会議といった政府刊行物を調査・収集した。 検討の結果、以下の点が明らかになった。 1)ディーフェンベーカーは、西部や東部沿海地域の経済的ニーズを理解し、地域の利益を国家の利益と積極的に結び付けることにより、地域間の妥協に基づく政策を推し進める手法をとっていた。2)とはいえ、彼の国家統合の手法は、地域間の経済格差には配慮する一方で、地域や、とりわけ民族の独自性の認識や承認に特徴付けられてきた自由党の手法とは対照的であった。彼の統合観は、民族の違いを超えた個々人の平等に基づくものであり、民族や、それを内包する地域を単位とする独自性は覆われがちであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の理由により、今年度の研究をおおむね順調に進めることができたと考える。 ディーフェンベーカーの伝記を中心とする、研究上必要となる二次資料を夏季休暇までに集中的に収集し、読み込みを進めた。その上で、夏季休暇中にカナダでの一次史料の調査・収集に臨むことができた。カナダ滞在中とその前後で、サスカチュワン大学の図書館員の方から史料収集上の助言を得られたこともあり、研究計画において予定していた一次史料を効果的に収集することができた。 得られた史資料から、1)ディーフェンベーカー政権における地域利害の妥協的な調整、およびその手法を明らかにすることができた。この点は、政権政党、政権形態の違いを超えた妥協的な政治の展開という、自身の仮説を支えるものとなった。2)ただし、個々人を単位とした平等に重きを置く彼の思想やリーダーシップの影響もあり、従来の自由党政権に見られた国家統合観とは大きく異なる点を確認することができた。 したがって、制度の内側で自律的に機能している妥協的な利害調整に基づく政治には時代を超えた継続性が見られるものの、今年度研究対象とした1950年代後半から60年代初頭にかけてのディーフェンベーカーの国家統合観は、地域的・民族的多元化という社会的事実とは必ずしも親和的ではなかったという見解にいたった。このことは、研究の順調な遂行を示す成果であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、年度ごとに個別に検討してきた、各政権の政策決定過程に関する研究成果を取りまとめる。その際、所属学会を通じて他の研究者と意見交換をし、さらに、論文としての発表準備を進める。論文は、1)妥協の政治を生み出したと考えられる歴史的背景の検討(19世紀半ばの植民地政治と連邦化の時代)、2)妥協の政治の展開についての検討(20世紀初頭から半ばまで)に分けて発表する。 各研究年度に予定していた、カナダへの渡航調査を要する一次史料はこれまでに収集することができた。したがって今年度は、新たに刊行された関連書籍や論文の収集と読み込みを進め、最新の研究動向の把握、および自身の研究の精緻化に努める。
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Causes of Carryover |
平成29年度に購入を予定していた書籍の刊行が遅れたため、次年度使用額33,840円が生じた。次年度交付金と併せて図書の購入に充てる。
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