2019 Fiscal Year Research-status Report
多数決型民主主義国家における妥協の政治―20世紀前半のカナダにおける連邦政治過程
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15K20937
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Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
高野 麻衣子 共立女子大学, 国際学部, 准教授 (10745673)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 地域主義 / 国家統合 / 妥協 / 包摂 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和1年度は、4月から12月末までの育児休暇期間中、研究を一時中断した。研究再開後は、本研究課題の最終年度である令和2年度の研究課題の遂行に必要となる作業をまずは見定め、その下準備を行った。今後、1)本研究が対象とした各政権における政治的イデオロギーを超えた妥協的な利害調整とその歴史的背景との関連性の検証、2)各政権において確認された妥協的な利害調整の通時的な取りまとめを予定している。 上記2)についてはこれまでの研究結果をもとに作業するため、新たな資料調査は要しない。他方、1)については、政治的リーダーらの発言や思想をもとに、彼らの政権運営と利害調整の手法の由来、また、妥協的な利害調整の萌芽が見られた19世紀半ば前後の植民地政治との関係性を検討する。そのため、本研究が検討対象とした政治的リーダーらについて、近刊の資料を中心に調査した。中でも、伝記が極めて限られているルイ・サンローラン元首相に関する書籍が今後刊行される予定であり、本研究課題を遂行する上で重要な参照材料となる。同書では、サンローラン政権期に成立した重要法案の内容に彼個人が果たした役割の評価が下されており、どのように役割を果たしたのかという観点から、彼の政権運営と利害調整の手法、とくにその由来を検討できるのではないかとの見通しを立てることができた。 また、19世紀半ばの植民地政治において、“inclusion”、すなわち異なる地域や民族とその利害を政治運営において積極的に包摂するという考え方が存在したことがわかっている。本研究が対象とする20世紀の各政権について予備的調査を行った結果、いずれにおいても“inclusion”への言及が見られた。したがって、この“inclusion”の考え方に注目することにより、妥協的な利害調整の通時的な説明につなげられるのではないかという見通しも立てることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究再開後は、一時中断した期間に進められた関連分野の研究動向をまずは把握する必要があった。本研究の検討対象であるマッケンジー・キング、ルイ・サンローラン、ジョン・ディーフェンベーカー元首相を中心に、令和2年度の作業を念頭に置いた文献調査を一通り終えることができた。 また、これまでの研究で明らかになった19世紀半ばの植民地政治における“inclusion”の考え方に注目して予備的調査を行った結果、本研究が対象とする20世紀の各政権期にも同様の考え方を見出すことができた。それにより、次年度の課題である妥協的な利害調整の通時的な説明に一つの見通しを立てることができたため、おおむね順調に研究を進めることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
上記1)、2)の作業を以下の通り進める。 1)19世紀の植民地政治において、“inclusion”の考え方に代表されるように妥協的な利害調整の萌芽が見られた。そのため、本研究が対象とする20世紀の政治的リーダーらの妥協的な利害調整の思想的根拠を、歴史を遡って見出すことができるかどうかについて、彼らの発言や文書をもとに検討する。令和1年度に行った予備的調査により、20世紀の連邦政治においても“inclusion”への言及が見られたため、それを手かがりにして検討を進める。使用する史料は、既に収集している彼らの個人文書に加えて、今後新たに刊行される二次文献である。 2)これまで個別に検討してきたキング、サンローラン、ディーフェンベーカーの各政権期に見られた妥協的な利害調整を通時的に説明する際、彼らの民族的出自、多数派政権・少数派政権の別、所属政党の違いが乗り越えられているのかどうかを明らかにする。これまでに実施した研究により、キング政権(自由党)、サンローラン政権(自由党)と、ディーフェンベーカー政権(進歩保守党)との間では、妥協の政治を支えていると考えられる国家統合観が異なっていることが明らかになった。したがって、その点を踏まえて上記の通時的な説明をする。 以上をまとめて、多元的な社会における安定的な統治について、既存の理論研究と照らし合わせて本研究の意義を提示する。
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Causes of Carryover |
令和1年度は、育児休暇により4月~12月末まで研究を一時中断したため、次年度使用額が生じている。次年度の予算は、近刊の書籍の購入を中心に充てる予定である。
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