2020 Fiscal Year Research-status Report
多数決型民主主義国家における妥協の政治―20世紀前半のカナダにおける連邦政治過程
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15K20937
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Research Institution | Kyoritsu Women's University |
Principal Investigator |
高野 麻衣子 共立女子大学, 国際学部, 准教授 (10745673)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 地域主義 / 国家統合 / 妥協 / 包摂 / 多数決型民主主義 / 少数派政権 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、1)本研究が対象とした各政権における政治的イデオロギーを超えた妥協的な利害調整とその歴史的背景との関連性の検証、2)各政権において確認された妥協的な利害調整の通時的な取りまとめを課題とした。 予定通り、2020年に刊行されたルイ・サンローラン元首相や連邦・州間関係の研究書を入手し、政権運営と利害調整におけるサンローラン個人の役割に新たな知見を得ることができた。本研究課題で検討の対象としたマッケンジー・キング、ジョン・ディーフェンベーカー元首相に比べて、サンローランは日記を残さず、伝記も極めて限られている。そのため、平等化交付金をはじめとする政策決定において、サンローランが政党の利益よりも、国民全体にとっての“right thing”かどうかを一貫して優先したという知見は、上記三者の国家統合観の比較において重要である。ただし、“right thing”かどうかを判断の基準としつつも、平等化交付金をめぐり、彼はケベック州の孤立を回避する政策的な妥協を最終的に生み出している。この点は、本研究の仮説である妥協的な利害調整、また、19世紀半ば以来見られてきた“inclusion”、すなわち、政権運営において異なる地域や民族とその利害を積極的に包摂するという考え方と一致する。したがって、この“inclusion”の考え方を根拠に、妥協的な利害調整の通時的な説明につなげられると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は、これまで各年度に個別に検討してきたキング、サンローラン、ディーフェンベーカー政権期の政権運営と利害調整の実態を通時的にとりまとめる必要があった。予定通り、サンローラン元首相やカナダの連邦・州間関係を扱った2020年刊行の研究書を新たに入手し、最新の研究動向を把握した。しかし、コロナ禍での変則的な学務および育児のため、令和2年度の課題遂行は二次文献をもとにした補足的な検討にとどまり、研究のとりまとめを終えることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度に終えることのできなかった、上記1)、2)の課題をあわせて、以下の通り進める。 1)妥協的な利害調整の前提として、19世紀の植民地政治に見られた“inclusion”の考え方に着目し、20世紀の連邦政治においてそれに言及された際の政治的文脈を明らかにする。それにより、本研究が対象とする20世紀の政治的リーダーらの妥協的な利害調整の思想的根拠を、歴史との関連で説明する。 2)これまで個別に検討してきたキング(自由党)、サンローラン(自由党)、ディーフェンベーカー(進歩保守党)の各政権期に見られた妥協的な利害調整を通時的に説明する際、彼らの民族的出自、多数派政権・少数派政権の別、所属政党の違いが乗り越えられているのかどうかを説明する。令和2年度に実施したサンローランに関する新たな検討を踏まえても、三者の国家統合観は異なるが、政府・政党次元において多数決型の民主主義国家であっても、最終的な政策決定にいたる前の段階で、各地域や民族の政治的な孤立を回避するための妥協的な利害調整がなされてきたことを通時的に説明する。 以上を総括し、多元的な社会における安定的な統治について、既存の理論研究と照らし合わせて本研究の意義を提示する。
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Causes of Carryover |
書籍の購入等、計画的に使用し、500円の残額が生じた。今後必要な物品は生じないと思われる。
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