2016 Fiscal Year Research-status Report
スピン鎖が持つ自由度とその有効場理論に現れる超対称性との関係の解明
Project/Area Number |
15K20939
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松井 千尋 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 助教 (60732451)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 多状態一次元排他過程 / 可積分量子スピン鎖 / 超対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
多状態一次元排他過程の一種である3状態人嫌い過程について調べ,2状態の場合には現れない多状態な系特有の振る舞いが見られることを明らかにした.3状態人嫌い過程は,遷移率が特定の条件を満たすとき周期的条件下で可解であることが知られており,そのカレント-密度曲線は二つの2状態単純排他過程と一致する.両端に粒子浴を付けた場合は可解性は保たれないが,定常状態におけるカレントは勾配型であり,流体極限の存在を仮定することでフィックの法則から区分線形な密度プロファイルを得ることができる.有限系の密度プロファイルにおいて,流体極限に対する有限サイズ補正が傾きの転移点に現れることを数値的に示し,系のサイズ依存性を表すスケーリング関数を提案した.さらに,反衝撃波の存在条件である2ピークカレント-密度曲線を3状態人嫌い過程が持つことに着目し,反衝撃波の振る舞いを調べた.両端の粒子浴密度に応じてカレントは多彩な振る舞いを示し,それぞれの相での衝撃波の振る舞いが知られている.既存研究では,最大カレント相における特定のパラメータ領域で反衝撃波の速度がゼロであると主張されていたが,時間スケールを系のサイズと同程度にすることにより,同パラメータ領域においても衝撃波はゆっくりと安定な位置へ移動することを示した. また,非超対称なスピン鎖が持つ隠れた超対称性のスピノン基底上での作用を調べ,スピン鎖に対応する場の理論における超対称性と一致することを示した.非超対称なスピン鎖は隠れた超対称性を持つことが近年示されたが,保存量である超対称チャージはスピン鎖長を変化させる演算子として定義されており,従来の超対称性との関係が不明瞭であった.真空を基底状態とするスピノン基底上での超対称チャージの作用を調べることにより,連続理論上で定義されたものと等価であることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の具体的な計画からは多少外れるものの,本課題の目標は可解モデルにおける代数表現の取り方が物理的振る舞いにどのような変化をもたらすか明らかにすることであり,昨年度の成果はその目的に適っていると判断できる. 一つ目の成果である3状態人嫌い過程は,厳密には可解モデルに関する成果ではないものの,初年度導入した多状態可解確率過程と関連するモデルであり,その特徴的振る舞いを明らかにすることで可解モデルに関する知見を得ることができた.また,多状態一次元排他過程に関する文献は少なく,多状態に特有の振る舞いを明らかにしたことで確率過程分野の発展への貢献も期待できる. 二つ目は可積分量子スピン鎖における隠れた超対称性に関する成果であり,スピン鎖に対して独自に導入された超対称代数生成子を従来のものと関連付けたことに意義がある.隠れた超対称性はスピン基底上でスピン鎖長を変化させるよう定義されており,従来の超対称性と整合性を持つように代数関係式が定義されている.一方,物理的な励起を記述する粒子はスピノンであり,その自由度はスピン鎖に対応する場の理論と一対一に対応している.このことから,隠れた超対称性をスピノン基底上で定式化し直すことにより場の理論における従来の超対称性との比較が可能になると考えた.結果,非超対称な量子スピン鎖に対して導入された超対称性は従来のものと等価であることがわかり,さらに,非超対称なスピン鎖に対応する場の理論が超対称性を持つ理由は,特定の長さを持つ単独のスピン鎖は超対称性を持たないが,あらゆる長さのスピン鎖が構成するヒルベルト空間全てを考えることによって初めて超対称性が出現するためであることを明らかにした.
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度もこれまで同様,可解確率モデルと可積分量子スピン鎖という二本の柱を用いて,代数表現の取り方と物理量との関係解明のための研究に取り組む. まず,可積分量子スピン鎖に関しては,高次スピンへの拡張による超対称性の出現に関する研究を進める.昨年度までに非超対称なスピン1量子スピン鎖の連続極限において超対称性が出現する理由を明らかにしたが,今年度ではこれを一般の高次スピン系へ拡張する.対応する場の理論は分数超対称性を持つと期待され,先行研究の少ない分数超対称性を持つ物理系の特徴に関する研究基盤を確立する.また,スピン鎖上での超対称を代数的ベーテ仮設法に関連づけることを目指す.代数的ベーテ仮設法は相関関数など物理量の計算に有効であるが,励起構造の分類が複雑であることに難点がある.スピン鎖が持つ超対称性を用い,スピノン励起をベーテ根を用いて特徴付けることを目指す. 次に,可解確率モデルについて,当初は古典系のみ取り扱う予定であったが,量子系も同時に取り扱うこととする.近年導入された定常状態の厳密解を持つLindblad系に関する議論は,系の可解性のみならず可解模型が持つ新しいタイプの保存量を提唱するものであり,可積分系の新たな展開に重要な役割を果たすと考えられる.Lindblad方程式に従って時間発展する量子スピン系の性質を調べ,保存量が物理系の振る舞いに及ぼす影響について明らかにする.
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Causes of Carryover |
参加予定だった国際会議に招待され,旅費等が先方負担になったため繰越し金が発生した.繰越し金は,研究会で得た知見をもとに新たに展開予定の課題遂行に必要な書籍等の購入,及び研究訪問や成果発表に使用したい.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は,現在進行中の課題に関する学会発表を最低でも4件予定しており,その旅費に使用する.また,課題の遂行過程で生じたアイデアの実現や疑問点解決のため,書籍の購入も予定している.研究会における成果発表や議論を通し,意見交換した研究者との交流や研究課題の発展を図るため,研究所滞在旅費としても積極的に活用したい.
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Research Products
(12 results)