2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K20944
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊與田 英輝 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (50725851)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 固有状態熱化仮説 |
Outline of Annual Research Achievements |
量子情報・相関の緩和と物理量の期待値の熱化に関する研究を行った。 一つは量子情報・相関の非局在化に関するもので、量子多体系に埋め込まれた量子情報がどのように非局在化するかを三体相互情報量を指標として、厳密対角化を用いて数値的に調べた。非局在化が起きる場合、三体相互情報量は負となる。対象とした系は量子スピン系やSachdev-Ye-Kitaev(SYK)模型である。可積分・非可積分な量子スピン系において、三体相互情報量はほとんどの状態において負であり、特定の状態においては正となった。そのため、可積分性と非局在化は独立したものだと考えられる。SYKモデルは相互作用に乱れを含む模型であり非局在化が速く起きると期待されるが、それが乱れに関する平均を取らずに滑らかに生じ、乱れがない場合には時間的なゆらぎを伴うことがわかった。 固有状態熱化仮説(Eigenstate Thermalization Hypothesis; ETH)の数値的研究を行った。固有状態熱化仮説は孤立量子多体系におけるエネルギー固有状態に関する性質であり、これが満たされる場合は系は熱的な状態に緩和する。以前弱いETHの証明を行なったが、強いETHの証明はなされていない。強いETHは系が非可積分のときには成り立ち、可積分の時には成り立たないと考えられている。ETHは量子カオスの文脈で提唱された概念で、量子カオスの数値計算において近可積分系では有限サイズ効果が大きいことが知られていた。これらを踏まえ、ETHの数値計算を可積分性を変えつつ行った。手法は数値的な厳密対角化とSakurai-Sugiura法であり、大偏差原理的にETHを満たさない状態をサイズごとに数えることで実行した。結果として、ETHは近可積分系においても成り立ち、しかもETHが成り立たない状態の比率はサイズに対して二重指数関数的に小さくなることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ある非平衡状態やある量子相関を制御により作成したとしても、それが不安定・短寿命の場合、活用することは難しい。そのため、量子情報や物理量の期待値の緩和に関する知見が、非平衡状態を作る上で重要であると考えられる。特に、近年の孤立量子多体系の統計力学の観点からは、初期状態が非平衡状態であったとしても孤立系のユニタリ時間発展で平衡状態に到達し得ることがわかっており、しかも多くの場合それは熱的な平衡状態とほぼ同じ状態である。この熱的な性質を保証する仮説として、ETHがある。また、ハミルトニアンが「典型的」なものだとすると、緩和は高速であることも知られている。 以上を踏まえると、ETHが成り立ち、ハミルトニアンが「典型的」なら、非平衡状態を活用することは難しいということになる。そのため、これらの性質がいつ成り立ち、いつ成り立たないのかを調べるのが重要であると考え、これらの性質を重点的に調べることにした。 実績の欄に書いたように、ETHが成り立つ場合の数値的な検証はすでに行い、そのための手法を整えることができた。また、今後の計算において必要な数値手法の整備を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、主に固有状態熱化仮説(ETH)がなぜ成り立つのか、それが外乱に対してどれだけロバストなのか、転移点付近などでどのような影響を受けるかを調べる予定である。非平衡状態に興味がある場合、ETHはむしろ障害になるものである。適当なセットアップの元でETHが破れる、もしくは弱まるならば、それを非平衡状態を活用できると期待される。 研究の遂行においては、計算リソースが重要であるため、物性研究所のスーパーコンピューターなどのスパコンを適宜利用する。
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Causes of Carryover |
予定していた支出が抑えられたため、次年次に使用します。
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Research Products
(7 results)