2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K20951
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
馬場 行広 東京大学, 医科学研究所, 特任研究員 (40581418)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 網膜再生 / 網膜発生 / 細胞増殖 / 神経細胞分化 / 遺伝子導入 / 再生医療 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに網膜発生やゼブラフィッシュの網膜再生に関係する遺伝子群(Pax6, Sox2, Chx10, Rax, Otx2, Ascl1, Hes1, NICD3)を候補遺伝子として定め、マウス網膜に遺伝子導入を行った後に、細胞増殖の誘導能を評価することで、網膜再生誘導因子の同定を試みた。in vitroの解析では、Ascl1とNICD3の共発現によってミュラーグリア細胞の増殖が強く誘導されることを見出した。さらに、in vivoの実験において、生後9日目の幼若なミュラーグリア細胞でAscl1とNICD3を共発現させると、細胞増殖が誘導されることを認めた。これらの結果から、Ascl1とNICD3遺伝子の共発現により、幼若なミュラーグリア細胞の増殖が促進されることが明らかになってきた。 当該年度の研究では、成体網膜のミュラーグリア細胞でも細胞増殖を促進するかについて検討を行い、細胞増殖によって生み出された細胞の分化についても解析を行った。成体網膜でのAscl1とNICD3の共発現実験では、一部のミュラーグリア細胞の増殖促進が誘導されていた。成体で時期特異的に細胞増殖を誘導したという知見はこれまでに報告はないため、今回得られた知見はヒトの網膜変性疾患を治療する上で非常に重要な発見だと思われる。一方、in vitroでの細胞分化の解析では、Ascl1とNICD3によって増殖した細胞は、神経細胞分化マーカーを発現しておらず、ミュラーグリア細胞マーカーを発現していることが観察された。この結果は、神経前駆細胞へのリプログラミングの程度が不十分であることを示唆しており、神経細胞への分化には他の因子を考慮することが必要であると推測される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では再生による網膜変性疾患の新規治療法を確立するために、ゼブラフィッシュの網膜再生で得られた知見をマウスに応用し、遺伝子導入による網膜再生誘導の可能性を検証している。以下の2つの項目について計画を立てて実験を行った結果、いくつかの新しい知見を得た。 (1)Ascl1とNICD3によって増殖したミュラーグリア細胞が神経細胞に分化するのかを調べた結果、神経細胞への分化は見られず、ほとんどの細胞がミュラーグリア細胞および神経前駆細胞のマーカーを発現していた。当初の計画ではBrdUで増殖細胞をラベルして、神経細胞マーカーとの多重染色を行なう予定だったが、染色性に問題があったために神経細胞への分化を評価することが困難であった。そのため、BrdUの代わりにEdUを使うことにより、多重染色が可能になり、神経細胞への分化を評価することに成功した。 (2)Ascl1とNICD3による幼若なミュラーグリア細胞の増殖誘導の現象が、成体の成熟したミュラーグリア細胞でも起こるのかを検証したところ、わずかな数のミュラーグリア細胞がAscl1とNICD3の共発現により細胞増殖が促進していた。 当初の計画では、CMV-CreERで目的遺伝子を発現させようとしたが、成体のミュラーグリア細胞で遺伝子発現を誘導することがうまくいかなかった。この問題点を解決するために、いくつかのプロモーターでスクリーニングを行なった結果、効率は低いもののCAG-CreERを使うことによりミュラーグリア細胞で遺伝子発現を誘導することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
具体的な実験の流れとしては、(1)in vitroの細胞増殖誘導の解析、(2)in vivoの細胞増殖誘導の解析、(3)増殖細胞の神経細胞への分化の検討、(4)MNU誘発網膜変性モデルにおける細胞増殖誘導及び神経細胞分化の評価、の4つの項目順に従って候補遺伝子のスクリーニングを進めている。現在までにAscl1とNICD3遺伝子共発現により、(1)in vitroで細胞増殖誘導が見られた、(2)in vivoにおいても細胞増殖誘導が観察された、(3)増殖細胞は神経細胞への分化は認められなかったことが結果として得られている。Ascl1とNICD3の共発現だけでは神経前駆細胞へのリプログラミングの程度が不十分であることを示唆しており、神経細胞への分化には他の因子を考慮することが必要であると推測される。 これらの結果から、神経細胞への分化が起こるような条件を探すことが今後の課題として考えられる。その対応策として、Ascl1、NICD3および他の候補遺伝子の組み合わせで再度スクリーニングを始め、神経細胞分化において有望な候補遺伝子を同定していく。また、遺伝子導入した候補遺伝子が発現し続けることによって神経細胞への分化に影響を与える可能性がある。遺伝子を一過性に発現させるためには、Tet-offシステムによる遺伝子導入法が有効であると考えられる。現在、テトラサイクリン制御性トランス活性化因子をミューラーグリア細胞特異的にかつ充分に発現させるプロモーターの選定を終えて、Tet-offシステムを用いた遺伝子導入実験を構築しつつある。
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