2015 Fiscal Year Research-status Report
巨大ヘモグロビン結晶中での酸素結合飽和度の同定と時分割構造解析
Project/Area Number |
15K20971
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
沼本 修孝 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 助教 (20378582)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | X線結晶構造解析 / 顕微分光 / 四次構造変化 / 協同性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、無脊椎動物由来の巨大ヘモグロビン結晶において酸素結合の飽和度と立体構造が同時に変化する過程を時分割的に精密観測する。研究初年度の平成27年度は、以下の通り研究を実施した。 1. 巨大ヘモグロビン酸素結合中間構造の時分割X線結晶構造解析 当初計画していたサツマハオリムシ由来巨大ヘモグロビンの試料量が十分確保できなかったため、同種の生物であるマシコヒゲムシ由来巨大ヘモグロビンを用いて結晶の調製を行った。酸素結合型結晶を準備し、次いでポリエチレングリコールとdithioniteを加えた溶液に浸漬させることで酸素解離型結晶へ移行させた。完全な酸素解離型への移行には数分を要するため、浸漬時間を調整することで、様々な酸素結合飽和度の結晶を大量に調製した。これらの結晶について、放射光施設にてX線回折データを取得し、結晶構造を決定した。これらの比較から、構造変化が酸素結合飽和度とともに進行していることが確認できた。 2. 各中間構造の結晶について顕微分光測定による酸素結合飽和度の同定 上記の方法により調製した中間構造の結晶について、顕微分光の手法によりその可視吸収スペクトルを測定し、酸素結合飽和度を定量的に見積もった。結晶からの顕微分光測定に際しては、レーザーを用いた結晶加工機を利用することで、顕微分光に最適な厚さ(30 um)の領域と、良好なX線回折データ収集に必要な厚さ(400-500 um 以上)の領域をひとつの結晶内において作り分けることに成功し、酸素結合飽和度の同定とX線回折データ収集を同一の結晶より行うための手法を確立した。これにより、巨大ヘモグロビン結晶において酸素結合の飽和度と立体構造が同時に変化する過程を定量的に観測することが可能となり、本研究の遂行における技術的な課題を克服できる見通しが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の期間全体を通して必要となる巨大ヘモグロビンの結晶調製が順調に進んでおり、数十個の結晶を凍結保存して放射光施設での実験に備えることが出来ている。また顕微分光とX線回折実験とをひとつの結晶から行うための結晶加工の条件を確定することができ、実際にいくつかの中間構造の吸収スペクトルとX線回折データを取得することができた。これらから、結晶中で巨大ヘモグロビンから酸素分子が解離していく過程を吸収スペクトルと電子密度から確認することができ、また酸素解離に伴う巨大ヘモグロビンの構造変化もとらえることができた。以上のように、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究最終年度となる本年度についても,当初の研究実施計画通りに巨大ヘモグロビンの時分割X線結晶構造解析と顕微分光測定による酸素結合飽和度の同定を行う。前年度に確立した実験手法、条件を踏襲することでより効率よくデータの収集ができる見込みであり、最終的に、酸素結合飽和度が100%から0%に至る中間構造を、10-20%刻みで再現できる程度に時分割構造解析行うことを目指す。
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Causes of Carryover |
試料調製が当初計画より効率的に進んだため、消耗品の購入量が少なくて済んだため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費に充当して使用する。
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Research Products
(2 results)