2016 Fiscal Year Research-status Report
細胞の不均一性を基盤とした組織形態形成のメカニズム
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15K21065
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
進藤 麻子 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (60512118)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 組織形態形成 / アクトミオシン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はアフリカツメガエル胚をモデルとして、組織形態形成運動である収斂伸長運動の制御メカニズムの解明を目指した。収斂伸長運動は、細胞間接着面に蓄積し活性化されるアクトミオシンが組織内で適切に、しかし不均一に分配され、その細胞間接着面を収縮させることによって駆動される。昨年度は、細胞間接着面を構成する二つの細胞内のアクトミオシンの動態を、アクチンおよびミオシンのマーカーをモザイク状に発現させ、それらをライブイメージングで撮影・解析することにより明らかにした。さらに、収斂伸長運動の制御分子群としてよく知られる平面内細胞極性(Planar cell polarity: PCP)経路の構成蛋白質が、活性化アクトミオシンが蓄積する細胞間接着面に蓄積し、かつ同じように組織内で不均一に分配されていることを見出した。 本年度は、昨年度に観察された細胞間接着面のアクチン・ミオシンの動態にPCP経路が必須であることを見出した。当初計画していた、不均一な駆動力の制御機構を解明するために明らかにしようとしていたアクチン・ミオシンおよびPCP蛋白質の組織内の分配パターンについては、これまでのところ一定の法則は見出されていない。多細胞の継続的な運動の中から法則を見いだすことが困難であったことも一因であったため、新たなアプローチとしてシミュレーションによって効率的な収斂伸長運動の駆動力の分配法則を見いだすことを検討した。 アクトミオシンとPCP蛋白質の蓄積および分配機構は現在検証中である。候補として、当初計画していた細胞内カルシウムの動態が関連することを予想し、その可視化を行ったが、明らかな関連は見出されなかった。制御機構については課題が残るが、得られた結果から、収斂伸長運動を駆動する力が組織内で不均一である生物学的意義については一定の成果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度開始したモザイク発現によるアクトミオシンとPCP蛋白質の動態は順調に解析が進み、一定の成果が得られた。アクトミオシンとPCP蛋白質の組織内での分配機構に関しては解析に時間を要したが、これまでのところ、特定の細胞が優位にアクトミオシンやPCP蛋白質を蓄積する傾向は見出されていない。このため、アクトミオシンの組織内での分配パターンを明らかにする必要があるが、画像解析からのみでは明らかな結果を得ることが困難であることが考えられた。そこで、並行して新たに2次元バーテックスモデルによるシミュレーションを共同研究により開始した。異なるアプローチを開始したことにより、イメージング結果からのみでは検出が困難なアクトミオシンの組織内での動態パターンの予測が可能になると考えられ、新たな発展が期待できる。 一定の成果が得られた一方で、当初解明を目指していた、組織内で適切な細胞が駆動力であるアクトミオシンを活性化するメカニズムに関しては未だ不明である。この点を明らかにするため、アクトミオシンやPCP蛋白質の可視化の他に、細胞内カルシウムイメージングや細胞内カルシウム濃度を細胞レベルで操作するなどの方法を試みたが、アクトミオシンの動態との明確な関連は見出されなかった。このような課題は残るものの、アクトミオシン動態がPCP経路によって時空間的に適切に制御され、収斂伸長運動を効率的に駆動するためにこれらが組織内、および細胞内でも不均一に分配されていることが判明したことは本研究の成果としてあげられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回、解析したPCP蛋白質は一種のみであったが、今後は複数存在するその他のPCP蛋白質の動態の解析が、さらなる制御メカニズムの解明につながると考えている。そのためには、ライブイメージングのためのよりよいマーカーが必要となるため、その検証を行っていく。さらに、アクチン・ミオシンの時空間的な局在解析にある程度の時間を要したため、今後はその効率化を模索し、新たな解析方法を検証していく。また、今回新たに開始したシミュレーションとの併用で、イメージング結果における解析対象を予測し、対象を絞って解析することが今後の研究進展の効率化には必要になると考えられた。同時に、シミュレーション結果と実験結果との整合性をさらに検証していく必要がある。これらに加え、今回、「組織内でどの細胞がどうあるべきか」という不均一性の確立機構が組織形態形成の基盤である可能性も示唆されたことから、今後は細胞レベルでの動態の人為的な操作を可能にすることが研究のさらなる進展をもたらすと考えている。これには、光操作技術による細胞駆動力の操作等が有用であるため、今後の推進方策の一つとする。
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Causes of Carryover |
実績概要および進捗状況に記載したとおり、初年度より解析に時間を要し、さらに本年度は遅れの原因となっていた解析困難な現象を、新たな手法をとりいれることで異なる側面から検証した。本研究に必要な主な解析とは、イメージングデータに関するものであるが、これらは数時間の現象を10秒毎に撮影したものであり、さらに1フレームに10枚ほどのZ軸方向の画像を含む。実験を進めるにつれ、Z軸方向の画像と10秒という短いインターバルで撮影することが適切であることが判明したため、想定以上に解析に時間が要することとなった。また、現象の複雑さから、シミュレーションの手法をとり入れることとなったが、実際の実験結果との検証が必要となり、これにさらなる実験が必要となった。これらのことから当初計画よりも若干の遅れが生じ、さらなる実験が必要となったことから次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上述した新たに必要となったイメージング実験に必要な消耗品費に加え、解析を行う者の人件費も想定している。
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