2015 Fiscal Year Research-status Report
防水・撥水材の水分移動特性と屋外文化財への適用可能性
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15K21092
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊庭 千恵美 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10462342)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 撥水剤 / 含浸 / 相変化 / 屋外環境 / 水分浸透実験 / ガンマ線 / 屋外文化財 |
Outline of Annual Research Achievements |
建築材料の耐久性に水分が与える影響は非常に大きく、建造物の長寿命化には材料への水分の浸透経路に応じた対策が重要である。屋外文化財では材料自体に文化的価値があるものが多く、外界気象下で風化が進む中、外観への影響を極力抑えた有効な保存対策が求められており、表面保護が選択肢の一つとなる。水分浸透を制御する方法の一つである防水・撥水材による表面処理について、実使用環境下における材料内水分の温度変化に伴う相変化についての検討例は少ない。本研究では防水・撥水材の水分特性を把握した上で、周囲の環境条件と材料物性を考慮した数値解析により、材料内水分移動の様子を明らかにすることを目的とする。 平成27年度は、まず実環境下での防水・撥水材の挙動を調べるため、撥水材を施工した建築材料の屋外暴露を開始し、初期的な外観変化の観察を行った。撥水剤には劣化抑制と美観維持の目的で開発されたフッ素ポリマー・シリコーン系被覆材や無機系(アルコキシシラン系)の含浸封孔剤、市販の含浸剤を用いた。基材としては、木材・石材・素焼き板を対象とした。撥水剤の種類によって、濡れ色がつくものや紫外線による変色があるもの、降雨時の給水量に差があることが確認された。 また、ガンマ線含水率測定装置を用いてレンガへの水分浸透実験を行い、撥水剤有無による水分浸透の違いを定量的に把握した。さらに、含浸系撥水剤の透水抵抗を表現する数値解析モデルを作成し、実験結果を比較的よい精度で再現できた。 屋外文化財への適用を検討するケーススタディとしては、脆弱な凝灰岩で構成されたトルコ・カッパドキアのレッドバレー内の岩窟教会で現地での気象データや地盤水分データを取得するとともに、同質の小岩体に撥水剤を塗布して、現地の研究協力者を通じて経過観察を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
建築施工者や防水・撥水剤のメーカーへのヒアリングを行い、防水・撥水剤の基本特性の情報は得られてきており、継続して情報収集を進める。透湿抵抗と透水抵抗、水分浸透については実験方法とその結果の処理方法について検討を行い、1種類についての結果が得られた。これらの実験結果を用いた熱水分移動の数値解析モデルも作成し、定常実験の結果の再現ができている。 屋外暴露試験については、予定通り初期的な外観変化の観察を行うことができたため、今後も試験を継続する。 屋外文化財への適用では、次年度行う予定であった現地での施工実験を前倒しして行うことができたため、研究期間内により多くのデータが得られる見込みである。
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Strategy for Future Research Activity |
屋外暴露試験は継続して観察を行うとともに、現在見られている外観変化について、撥水剤の成分からその原因を検討する。 水分浸透実験については、1種類の撥水剤の定常実験結果が得られているので、撥水剤の種類を増やすとともに、非定常条件での実験を行い、解析に用いる基礎データをさらに蓄積する。また、撥水剤の有無による凍害性状への影響を調べるため、材料の凍結融解実験方法と条件の検討を行う。数値解析では、凍結融解を考慮した既存の解析モデルを改良し、計算精度の向上を図る。 屋外文化財については、現地での試験施工ができたため、外観写真等から風化の度合いを定量化し、風化の速さと現地の気象・水分データとの関係を検討する。最終的には、数値解析により外壁岩石の温度と含水率分布の予測を行い、効果的な施工部位についても検討する。
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Causes of Carryover |
4月1日締め切りの国際学会への梗概応募にあたり、3月30日に英文校正を依頼したところ、校正完了・請求日が4月1日となり、平成27年度内に執行できなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
4月1日請求の英文校正費として既に使用済み。
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