2015 Fiscal Year Research-status Report
溶媒和構造計測手法の研究:拘束空間内における液体の統計力学の開発と応用
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15K21100
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
天野 健一 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30634191)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 溶媒和構造 / 逆計算 / 表面分析 / 液体の統計力学 / 水和構造 / フォースカーブ / 平均力ポテンシャル / 数理工学 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで研究者が独自に研究してきた変換理論(原子間力顕微鏡や表面力測定装置で測定されるフォースカーブを固体表面上の溶媒和構造に変換する理論)の開発を行った。これまで、平たい板と板の間のフォースカーブを溶媒和構造に変換する理論を提案していたが、実際の原子間力顕微鏡のプローブは鋭い針であるし、表面力測定装置では板は円筒型である。そこで本年度は、より現実に近い形状モデルにおける変換理論の導出を行った。この変換理論の基礎は液体の統計力学である。溶媒を小球の集団として取り扱い、また、カークウッドの重ね合わせ近似を適用、さらに、デルヤギン近似の厳密解を求める事で、本変換理論の導出に成功した。そして、変換理論の検証実験を計算機中で行い、本変換理論はフォースカーブから溶媒和構造を半定量的に計算できる事を示した。実際に、原子間力顕微鏡で測定された水中におけるマイカ鉱物上のフォースカーブをインプットとして、マイカ鉱物上の水和構造の見積もりも行った。見積もられた水和構造は分子動力学シミュレーションやX線反射率測定による結果と良い一致を示す事が分かった。さらに、変換理論によって実際のプローブの有効直径は1nm程度である事も判明した。原子間力顕微鏡の測定条件を模倣した分子動力学シミュレーションでは、モデルプローブの直径は1nm程度ある。よって、プローブ直径においても変換理論と分子動力学シミュレーションの間で良い一致が見られた。これらの成果は、学会や物理化学の専門誌で発表した。変換理論の精度をより高めるには、拘束空間内の液体の統計力学をより深く理解する必要がある。そこで、汎関数微分などを利用し、液体を狭い空間に閉じ込めた場合の挙動を理論解析した。今後は、ここで導出した式を利用し、変換理論の精度向上に努める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
原子間力顕微鏡や表面力測定装置で利用されているプローブや板の形状を取り入れ、より現実的なモデルの中で、フォースカーブから溶媒和構造の変換を出来るようにした。この変換理論の導出は、本研究が開始され早々に成功したため、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。また、その新しい変換理論の検証計算や実験への適用も行う事ができた。検証計算によって、本変換理論の妥当性や精度の高さが確認され、さらに、実験への適用によって実験データからマイカ鉱物上の水和構造の見積もりに成功した。その成果は、本年度中に物理化学の有名専門誌に搭載する事もできた。これまで求めてきた水和構造は、1次元の水和構造だったが、現在はより詳細な3次元の水和構造の計算にも取り組んでいる。また、汎関数微分を使い拘束空間内の液体の性質をより深く理解するための理論解析も行った。この理論解析は、今後の課題である変換理論の精度向上に役立つものと考えられる。この様に、本研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、変換理論のさらなる精度向上に努める。精度向上のために拘束空間内の液体の統計力学をより深く理解し、新たな理論解析を行う。精度向上が期待できる変換理論を作成する毎に検証計算も行う。また、マイカ鉱物だけでなく他の鉱物上の水和構造の見積もりにも取り組む。さらに、これまでX線反射率測定などの実験でも測定されていない有機分子結晶や生体膜上の水和構造の見積もりにも挑戦する。本変換理論は、原子間力顕微鏡で得られたフォースカーブをインプットとして利用する訳だが、その際、フォースカーブのどの位置においてプローブと基板表面間の距離がちょうど溶媒の直径分に相当するのかを判断する必要がある。現在の所、平たい2枚の板間のフォースカーブの形状を説明する理論を元にその位置を決定しているが、今後はより精密な位置決定法の研究も行う。ところで、これまで求めてきた水和構造は1次元の水和構造だったが、現在はより詳細な3次元の水和構造の計算にも取り組んでいる。そこで、本変換理論が三次元中でも機能するのか検証計算もする。
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Causes of Carryover |
海外のシンポジウムに参加の予定だったが、仕事の都合により不参加だったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国際共同研究の関連で海外に出張する「予定」となった。そこで、平成27年度に余った科研費はこの出張の足しとして利用する予定である。平成28年度分の科研費は、この国際出張以外に、国内出張やソフトウェア、パソコン、教科書等の支払いに利用する。
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Research Products
(9 results)