2015 Fiscal Year Research-status Report
かご型POSSを頭部とする脂質分子の自己組織化機構に関する計算機研究
Project/Area Number |
15K21107
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉元 健治 京都大学, 日本ーエジプト連携教育研究ユニット, 准教授 (00645278)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | POSS / シミュレーション / 無機有機ハイブリッド分子 / 自己組織化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「分子シミュレーションを用いて、バルクでのPOSS含有脂質の自己組織化のメカニズムを解明し、その特異な分子構造が自己組織化に及ぶ影響について系統化する」ことである。平成27年度は当初の予定通り、「POSS含有脂質の分子モデル構築」と「POSS含有脂質の自己組織化メカニズムの解明」に取り組んだ。まず、過去に提案されたPOSS分子の力場をいくつか検証したところ、POSS分子やアルキル鎖の結晶の融点(Tm)を再現するには、A. Strioloらの力場[J. Phys. Chem. B 11, 12248 (2007)]が妥当であることが確認された。分子動力学シミュレーションでTmを調べる際には、固体(結晶)-液体の界面の動きから融点を求める界面法[N. Waheed, et al., J. Chem. Phys. 116, 2301 (2002)]を用いた。特にTmより低い温度で固体結晶が成長しやすい系では、単純加熱法よりもTmを正確に算出できる。実際にMethyl POSS結晶と直鎖状アルキル鎖(炭素分子18個)の結晶のTmを界面法で調べたところ、其々約358Kと約554Kとなり、実験データ(303Kと523K)に近い値が得られた。続いて、「POSS含有脂質の自己組織化メカニズムの解明」する第一ステップとして、Methyl POSSに直鎖状アルキル鎖(炭素分子18個)が結合したPOSS含有脂質分子を用いて、POSS層とアルキル層で構成される二重層の結晶構造を作成した。界面法でその熱的挙動を調べると、高い温度ではPOSS層もアルキル層も融解したが、低い温度では結晶領域の成長は観られなかった。原因としては、POSS含有脂質分子の非対称性や拡散速度の低下が考えられる。今後は低温での自己組織化を促進させる方法としてレプリカ交換法やモデルの粗視化を検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究課題としては、「POSS含有脂質の分子モデル構築」と「バルク系でのPOSS含有脂質の自己組織化メカニズムの解明」を提案していた。分子モデル構築については、過去に提案されたPOSS分子の力場をいくつか検証し、A. Strioloらの力場[J. Phys. Chem. B 11, 12248 (2007)]が、POSS分子やアルキル鎖の結晶の融点(Tm)を再現するためには妥当であることを確認した。分子動力学(MD)シミュレーションでTmを調べる際、単純加熱法を用いると、加熱速度が大きすぎて過加熱状態になり、Tmが実験値より数百度も大きくなってしまった。そこで、固体(結晶)-液体の界面を予め人工的に作成し、その固液界面の動きから融点を求める界面法[N. Waheed, et al., J. Chem. Phys. 116, 2301 (2002)]を用いた。Methyl POSS結晶と直鎖状アルキル鎖(炭素分子18個)の結晶のTmを界面法で調べたところ、其々約358Kと約554Kとなり、実験データ(303Kと523K)により近い値が得られた。続いて、「POSS含有脂質の自己組織化メカニズムの解明」するため、まずA. Strioloらの力場を用いて、Methyl POSSに直鎖状アルキル鎖(炭素分子18個)が結合したPOSS含有脂質分子と、そのPOSS含有脂質分子数百本で構成される二重層(POSS層とアルキル層)の結晶構造を作成した。界面法でその熱的挙動を調べると、高い温度ではPOSS層もアルキル層も融解したが、低い温度では結晶領域の成長は観られなかった。原因としては、POSS含有脂質分子の非対称性や拡散速度の低下が考えられる。今後は低温での自己組織化を促進させる方法としてレプリカ交換法やモデルの粗視化を検討する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度は、まず昨年度の課題の引き続きとして、分子シミュレーションでPOSS含有脂質分子の自己組織化(結晶化)が起きるように検討する。具体的には、まず低温でもPOSS含有脂質分子が固液界面で様々な配位を取れるように、レプリカ交換法を用いる予定である。もしレプリカ交換法でもPOSS含有脂質分子の結晶化が成長しない場合、MARTINIモデル[S. J. Marrink and D. P. Tieleman, Chem. Soc. Rev., 42, 6801 (2013)]のように、POSS含有脂質分子の粗視化モデルを構築し、シミュレーションの時間ステップも大きくすることで、POSS含有脂質分子の自己組織化が起こる確率を増大させる予定である。POSS含有脂質分子の自己組織化が分子シミュレーションで実現され次第、当初予定していた次の課題として、親水部分(POSS)の置換基の種類や、疎水部分のアルキル鎖の本数・長さを変化させ、POSS含有脂質の分子構造が自己組織化へ及ぼす影響について系統的に調査していく。最終的には、POSS含有脂質をシリコン基板上に塗布し、熱処理によって自己組織化を促進させるプロセスを想定し、シミュレーションによってナノリソグラフィへの応用の可能性を探索する予定である。
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Causes of Carryover |
当初購入する予定だった計算機よりも安価で高性能な新モデルが販売されたので、そちらを購入した。また、円安が進んだため、予定していたアメリカ出張2回(学会、共同研究先との打ち合わせ)を1回の渡航にまとめて実施した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初の計画通り、1)スパコン使用料、2)国際学会(アメリカ)への参加費用、3)共同研究先(アメリカ)への訪問費用、に用いる予定である。円安が進んだり燃料費が上昇した場合、H27年度と同様に、2)と3)は1回の渡航で実施する予定である。
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Research Products
(2 results)