2016 Fiscal Year Research-status Report
分散配置9軸センサロガーによる気球系の飛翔中挙動計測とダイナミクス同定法の研究
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15K21130
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
莊司 泰弘 大阪大学, 工学研究科, 助教 (70582774)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 動力学 / 数値力学シミュレーション / 成層圏気球 / 測定機器開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は,前年度の若干の進捗遅れを回復し,研究計画に従って気球系の姿勢運動計測実験を行える状態に至り,実験条件が合えば実際に計測実験を行うことを目標とした.また,実験値を評価するための数値ダイナミクスモデルの検討を進めた. 平成27年度における若干の進捗遅れは,本研究で不可欠な姿勢ロガーシステムの開発において,気球の飛翔運用に対する安全性を十分に確保するための設計変更を重ねたためであった.平成28年度の姿勢ロガーシステムの開発においては,試作したプロトタイプモデルを元に,気球運用を担当するJAXAと協議した結果を反映したフライトモデルが,要求通りの安全性を持っていることを確認することが重要な項目の一つであった.フライトモデル2式(うち1式は予備)の製作と,環境試験を実施し,試験の結果は良好であり同型機を用いた実験を実施する了解をJAXAから得られた.計測実験は気象条件不適合のため実施されなかったものの,試験データは予定の性能を満たしており計測実験の準備は完了した.平成29年度実験のために,ロガーの増産を進めている.以上の研究活動について平成28年度大気球シンポジウム(11月相模原)において発表した. また,数値ダイナミクスモデルの検討も進めた.最も簡単なモデルとして2重振子の上腕がねじれるモデルを検討した.従来の研究で無視されていたものが姿勢運動の解析において無視できない可能性が示された.この知見を元に過去のフライトデータを見直したところ,同様の現象と見られる振動が観測されていたことが示唆された.現在多角的にこの現象について検討を進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
姿勢ロガーシステムの開発においては,使用環境に十分な耐性を持つ筐体の開発および姿勢計測,記録システムを開発した.また開発したシステムをJAXAにおいて試験し,姿勢ロガーシステムが気球の実験実施に対して何らの支障を及ぼさないことを確認した.また,システム1式を実験準備中の気球フライトシステムに設置し,フライトレディに至った.フライトレディ到達をもって,平成28年度の開発計画はすべて達成した.残念ながら平成28年度は搭載した気球は気象条件不適合のため実施されず,データの取得には至らなかった.気象条件不適合等による飛翔実験の翌年への延期は十分に考慮されたことであり,計画の進捗に影響しない.平成29年度にデータを確実に取得するため,なるべく多くの気球にあらかじめ設置し実験機会を得られるよう,姿勢ロガーの増産を進めた.平成28年度末時点でロガーの製造は順調に進捗している. 他方,数値ダイナミクスモデルの検討も進めた.最も簡単なモデルとして2重振子の上腕がねじれるモデルを検討した.従来の研究では2重振子の振れ角が小さなとき運動は線形化でき,2重振子の運動と上腕のねじれ運動は分離できるとされてきた.しかし本研究でモデルの運動を非線形シミュレーションにより検討したところ,2重振子の振れ角が10°以下と比較的小さなときでも,腕のねじれがモデルを線形化した際に得られるモード角振動数のいずれにも一致しない振動を励起する可能性が示された.また,過去のフライトデータにおいても,同様の現象と見られる振動が観測されていたことを見いだした.この振動の力学的要因を非線形項に求め,現在検討を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
気球実験に参加し,飛翔データを取得する.平成28年度末より進めているデータロガー増産を5月までに完了させ,3機程度の気球に対して姿勢計測実験準備を行い,気球飛翔中の姿勢データを1実験以上取得する.遅くとも8月末までにはデータの取得が終わっていると期待される.データは直ちに解析し,飛翔中の気球系全体の姿勢運動をコンピュータ上で再現する. 飛翔データに対する検討課題は現在のところ,各運動の角周波数の解析,運動モデルの検討等があげられる.前者については,過去の研究において各部寸法や質量等が同等であれば成層圏環境における運動に高い再現性が認められることが明らかになっており,寸法や質量等が異なる気球系において角周波数等が異なっても統一的に扱えるパラメータが存在することが期待される.そのようなパラメータは今後気球ゴンドラの姿勢制御系を設計評価するために重要な値となる. 一方運動モデルの検討では,平成28年度に検討した数値ダイナミクスモデルの妥当性を飛翔データを用いて検討する.28年度の検討モデルはゴンドラの運動をある程度説明できているものの,吊り紐等の運動は観測できていない.気球系全体の運動を理解するためには各部の運動の実測データが不可欠であり,データを得られる平成29年度においてはこの点についての研究が進展すると期待される. 以上の実験実施結果を平成29年内をめどに講演発表または雑誌発表する.また平成28年度に検討を進めたダイナミクスモデルについて,さらに詳細を詰め,成果発表する.一方取得したデータに基づくフライトモデルの公開方法についても検討を進める.
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Causes of Carryover |
開発した姿勢ロガーの環境試験のうち,1回分を大阪府立産業技術総合研究所が保有する恒温槽を使用して行った.本試験は開発したロガー電子基板を低温環境下において動作確認をするものであった.気球の飛翔環境は一般の電子機器が保証されている動作環境を著しく逸脱した極限環境であり,低温環境試験は確実なデータの取得を行うためには必須の試験である.姿勢ロガーの開発段階においては試験の結果を受けてロガーを改良しなければならない可能性があり,複数回の試験が必要となることが想定されたため,JAXAへ出張しJAXAが保有する恒温槽を繰り返し使用するよりも,近隣の施設で同等の試験を行うことを選択した.結果的には1回の試験で性能要求を満たすことができたため,当初予定していた大阪-相模原間の旅費1往復分を節減することになった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は研究の費用効率的な遂行による節減によって生じたものであるため,さらなる研究の充実に用いることが望ましい.研究の進捗から,今年度の物品費は当初の予定の範囲内に収まると見込まれるので,研究発表にかかる経費に充当することを予定する.本研究は現在においても世界的に見てオリジナリティのあるものであり,英文発表を積極的に進めたい.その際の英文校正等に充当するのが研究計画および予算の目的からも妥当であると考える.
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Research Products
(1 results)