2015 Fiscal Year Research-status Report
1770年代から1830年代におけるガイスト概念の変遷―ゲーテを中心に
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15K21149
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
久山 雄甫 神戸大学, 人文学研究科, 講師 (70723378)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ガイスト / ゲーテ |
Outline of Annual Research Achievements |
主にゲーテの諸作品におけるガイスト概念の含意を解明しようとする本研究計画において、平成27年度には以下の4点について研究を進めた。 1)平成27年5月にドイツのダルムシュタット・ゲーテ協会において『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』に登場する聖女マカーリエについての研究発表を行った。ここでは彼女が病身としてかつ鏡の比喩を用いて描写される理由をゲーテの宇宙論から導出し、マカーリエの「精神的・霊的」なあり方は、本来調和してあるべき宇宙と人間の関係が崩壊した時代としての近代を体現すると結論付けた。この発表は論文化され、ダルムシュタット・ゲーテ協会論集第六巻で発表された。 2)平成27年8月に中国の上海で開催された第13回国際独文学会において『ファウスト第二部』で「ガイスト」として描き出されるヘレナについての研究発表を行った。ここでは映像性こそヘレナの本質をなすと捉えた上で、その演出が当時の最新技術であるファンタスマゴリアを用いて効果的になされていたことを実証的に示した。この発表も論文化し学会の論文集に投稿した。 3)平成27年11月に発行された学術雑誌『モルフォロギア』に「モナド・エンテレケイア・マカーリエ――ゲーテにおける「個の不滅」の問題」と題する論文を発表した。ここでは、ガイスト概念とも密接に関係するモナド概念とエンテケレケイア概念のゲーテによる用法を整理し、「エンテレケイア」の語を使って描き出されるマカーリエの描写が「真摯な冗談」というゲーテ晩年の文学創作原理を反映している可能性を指摘した。 4)平成28年3月に発行されたドイツ文学論文雑誌『DA』に「薔薇十字的世界史の挫折――ゲーテの『秘密』と1780年代』と題する論文を発表した。ここではメシア的形象と理解できるフマヌスを登場させる未完の作品『秘密』が、普遍と個別をめぐるゲーテの「挫折」の本質を示していると主張した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように平成27年度にはゲーテ作品におけるガイスト概念の解明について具体的な研究実績をあげることができた。ただし研究計画にはもう一点、日本独文学会秋季大会でのゲーテ最晩年の詩に関する発表を盛り込んでいたが、これは実現できなかった。それには以下のふたつの理由があった。第一に平成27年6月にドイツ・ベルリンで行われたプネウマ概念に関するコロキウムに参加したこと、第二に平成27年10月に出版された集英社文庫『ゲーテ』(ポケットマスターピース・シリーズ第二巻)にゲーテ年譜などを執筆をしたことである。これら予期せぬ仕事によって時間的経済的な余裕がなくなり秋季大会での発表は断念した。しかし前者の学会参加によって、ガイスト概念の一源泉であるプネウマ概念について今後の研究推進に欠かせない知識と人的ネットワークを得ることができたし、また後者の原稿執筆も、専門的な研究成果の一端を一般社会へと還元できたという観点からは非常に有意義であったと考える。計画されていた研究内容は平成28年度に延期し実行する予定にしている。さらに本年度には、当初の研究計画には盛り込んでいなかったゲーテの未完作品『秘密』についての論文を発表することもできた。以上を総合して、計画通りではなかったものの、質と量の双方の観点からして研究はおおむね順調にすすんでいると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、本研究計画では、当初平成27年度に計画していたゲーテ最晩年の詩に関する発表を、次年度以降に延期する必要が生じた。この内容については、平成29年5月に開催予定の国際ゲーテ協会の総会で発表するべく、すでに申し込み(平成28年3月末締切)を行った。その他に関しては、当初の計画通りに研究を遂行する。それにくわえて、「ガイスト」概念の解明のためには、さらに研究計画を発展させて「ゲーテの現在概念」に関する研究を行うことも必要であることが明らかになった。これについてはすでに研究に着手しており、平成28年4月に口頭発表を行い、その後、論文化する予定である。
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Research Products
(9 results)