2015 Fiscal Year Research-status Report
都市の運動・スポーツ空間形成過程における身体へのまなざし
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15K21160
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Research Institution | Hyogo University of Teacher Education |
Principal Investigator |
小坂 美保 兵庫教育大学, 学校教育研究科(研究院), 助教 (50409710)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 公園 / 身体 / 近代化 / 都市 / 明治政府 / 公園制度 / 日比谷公園 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,日比谷公園が身体の近代化に果たした役割を明らかにするために,①先行研究の再検討,②公園の場所性(空間的実践)に焦点をあて研究を進めた。 まず,日比谷公園を対象とし,開園から現在に至るまでの運動空間の変遷を平面図および出来事から分析し,運動空間がどのような意図のもと設置され続けたのかについて検討した。日比谷公園における運動空間の意義を考えた場合,運動空間の変容は,ただ物的なものが変化した,配置が換わったという変化だけではないように思われる。そして,空間と身体活動は互いに切り離されることなく,生産の過程において,つくり/つくられるという相互関係にある(篠原雅武,2007,p.97)。この点において,日比谷公園の運動空間は,それの規模が拡張・縮小しながらも,現在に至るまで存在し続けている。そこには,公園に運動空間が必要とされる文脈をよみとることができる。しかしながら,この点については,運動空間の具体的な変容過程についてみることはできたが,人々あるいは利用者の欲求といった点や受容の過程について詳細に検討することができていない。 この点を踏まえ,公園の場所性についてM.セルトー等の「特定の場所」と「そこで産出される言説」との関係を参考に,空間は実践された場所ととらえ,そこを利用する人びとの行為やありふれた日常の実践こそが「公園」という空間をつくりあげてきたのではないかという仮説を導き出した。そして,可視的な他者の存在する近代都市公園において,人びとは相互監視(衆人環視)を意識しながら,押しつけられた儀礼行為や法や表象に従いつつ,為政者がねらっていたものとは別な楽しみ方を通して身体の近代化が図られたのではないか,という新たな視点から公園における身体の近代化を検討する必要性がでてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は,M.フーコーの『監獄の誕生』,デュルケームの『自殺論』『社会学的方法の規準』『分業論』,ジンメルの『社会学の根本問題』等を中心に分析の枠組みを提示しようと試みた。これまで,明治に誕生した日比谷公園が身体の近代化に果たした役割を明らかにすることを目的に,特にフーコーの文献を用いて分析を進めてきたが,為政者(権力者)による身体の近代化に関するかくれた権力を読み解くことは一定の結論を見いだすことができた。しかし,公園での人びとの振る舞いや身体所作の変化,意識の変化といった具体的な事柄をみたとき,公園そのものを楽しむ人びとの存在,つまり自ら秩序を受け入れる人びとをフーコー等の組織化された抑圧の空間に焦点をあてた議論のみでは課題を明らかにすることは困難であると考えた。そのため,新たな視点として,ジンメルやM.セルトー等の特定の場所において産出される言説の関係を「公園」に援用しようと試みた。可視的な他者の存在する近代都市公園において,人々は管理者の視線を意識するというよりはむしろ,同じように公園を楽しんでいる人々同士によって新たに作り上げられる相互監視(衆人環視)という視線を意識しながら,共通の身体所作や秩序を形成していく過程において,同じように公園を楽しんでいる人々同士の「楽しみ方」は,当初予想していたものとは異なってくる可能性が出てきた。というのは,公園に来る人々は,管理者による押しつけられた儀礼や法や表象に従いつつ,時には進んでそれを受け入れる姿もみられる。また,そうでありながら,為政者がねらっていた公園での振る舞いや楽しみ方とは別のものを作り出す姿もみられるからである。このような公園の利用者=民衆の両義的な公園受容をふまえた分析の枠組みを論文として構成することができなかったため,研究の進捗状況はやや遅れているとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については,公園の利用者=民衆の両義的な公園受容をふまえた分析の枠組みを論文として構成することを早急に進めていく。 また,今年度は公園利用者の具体的な姿を明らかにしていくための史料・資料収集を行う。この点は,公園の利用者=民衆の両義的な公園受容を実証的に検討できると考えている。 研究成果の発表等については,国内外での学会での発表および論文の投稿を予定している。特に論文の作成については,文献購読等の勉強会への参加,論文指導教員からの指導を計画的に受け実施していく。
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Causes of Carryover |
参加学会の開催が,3月下旬であり,事務手続きが年度をまたいでしまったため次年度使用額が生じたのが主な理由である。また,今年度の資料収集および分析作業において,アルバイト等が必要なく謝金での支出がなかったからである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については,3月下旬の学会への参加費および旅費でほぼ使用されている。残額については,次年度は,国際学会での発表を予定しており,論文作成等で謝金等に使用する予定である。また,所属機関変更に伴い予定している資料収集(日本体育大学図書館所蔵の雑誌『体育』)の実施費用が,交通機関の変更により当初より増額することが見込まれており交通費等に使用する予定である。
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