2016 Fiscal Year Research-status Report
海産生物に対する臭素化ダイオキシンの毒性リスク評価
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15K21204
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Research Institution | National Institute of Technology, Kumamoto College |
Principal Investigator |
平野 将司 熊本高等専門学校, 生物化学システム工学科, 講師 (20554471)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 環境化学物質 / 臭素化ダイオキシン / 生態毒性 / 甲殻類 / RNA-seq |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、海産生物に対する天然起源臭素化ダイオキシン類(PBDDs)の毒性リスクを評価することを目的としている。昨年度、低臭素化ダイオキシンの1,3,7-TriBDDを海産アミ類に暴露し、RNA-seqによるトランスクリプトーム解析を実施した。加えて、有機塩素化合物や工業用化学物質の暴露による転写産物の応答と比較したところ、1,3,7-TriBDDは有機塩素系化合物とは異なる毒性パスウェイを示す結果を得た。そこで本年度は、濃度依存的な応答について調べるとともに、1,3,7-TriBDD応答遺伝子群についてネットワーク解析による毒性発現機序を調査した。 先ず、1,3,7-TriBDD初期設定濃度を4濃度区設定し、暴露試験を実施した。これらをRNA-seq解析に供し、遺伝子発現解析を行ったところ、640~913遺伝子の発現変動(DEGs)が得られた。低濃度暴露群では遺伝子発現の誘導が多くみられたものの、高濃度暴露群では抑制される遺伝子群が多くみられた。共通して変動するDEGsは33遺伝子であった。各暴露群で得られたDEGsのヒートマップを作成したところ、特にミオシン関連遺伝子群について顕著に濃度依存的な発現抑制が認められた。 次にDEGsについてネットワーク解析を実施した。海産アミ類のデータベースは整備されていないため、ショウジョウバエのタンパク質間相互作用(PPI)ネットワーク情報を基に構築した。得られたモジュールについて遺伝子オントロジー、パスウェイベースで情報抽出したところ、シグナルトランスダクション、転写因子結合、TCAサイクル、ミオシン結合への影響が認められた。これらのことから、低臭素化ダイオキシンは、海域において海綿、紅藻、また関連バクテリアによって生合成されることが報告されており、その生合成の生物学的役割は不明であるが、甲殻類など他の生物には毒性影響を引き起こすものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、異動にともない研究環境が変わったことから当初予定の行動を指標とした暴露実験が実施できなかったものの、バイオインフォマティクス解析を十分に進めることができた。非モデル生物におけるネットワーク解析は、対象生物のデータベースが整備されていないことから、他のモデル生物のネットワーク情報に依存せざるをえなかった。本研究ではショウジョウバエのPPIベースでネットワークを構築できたため、解析手法も整いつつある。また、RNA-seqで取得した海産アミ類の転写産物の配列情報からGO termの抽出にも着手した。以上のことから、おおむね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで低臭素化ダイオキシンに加え、有機塩素化合物や工業用化学物質を海産アミ類へ暴露し、遺伝子発現解析から転写応答のマップを構築することができた。臭素数の異なる他のPBDDsや他の環境汚染物質の暴露によるデータを追加し、さらなる毒性マップの充実を図る。また、遺伝子発現、ネットワーク解析からミオシン関連遺伝子群の発現抑制が顕著に認められたため、行動を指標とした生態毒性試験を実施し、最小作用濃度を決定する。さらに、PBDDsを高蓄積する二枚貝など他の海産生物への影響評価も予定している。
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Causes of Carryover |
本年度は異動により研究環境の整備に充てたが、インフォマティクス解析を進展させたため、暴露実験用の使用額が少なかった。研究発表のため旅費を計上していたが、予定していた国際学会へ参加できなかったため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度計画と合わせ、異動に伴う研究環境の整備が必要となったことから、インキュベータや顕微鏡等を次年度使用額で購入する。また、研究発表の旅費として使用する。
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Research Products
(5 results)
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[Journal Article] Transcriptional response of mysid crustacean, Americamysis bahia, is affected by subchronic exposure to nonylphenol.2016
Author(s)
Uchida M*, Hirano M*, Ishibashi H, Kobayashi J, Kagami Y, Koyanagi A, Kusano T, Koga M, Arizono K.(*, Contributed equally)
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Journal Title
Ecotoxicol Environ Saf.
Volume: 133
Pages: 360-365
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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