2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K21258
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
安岡 晶子 神戸大学, 人文学研究科, 学術研究員 (90634410)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 両眼視差 / 奥行き知覚 / 周辺視 / 運動情報 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、視野の中心部と周辺部がそれぞれ異なる知覚現象を示す意義を踏まえて、運動対象観察時の周辺視野領域の両眼立体視の特性を解明することが目的である。視野内の垂直水平傾斜(45度)軸上に両眼視差を付加した図形を提示し、奥行き方向判断の課題を行うことで、視野位置と偏心度による差異を検討する。その実験結果を参考に、各軸上の偏心度ごとに有効な運動速度を検討する。刺激に前後方向の運動視対象を使用するに当たり、まず視対象が運動情報を持つときの奥行き知覚への効果と、視野内の動的対象物を検出可能な範囲の検討を行った。 前者の問題を検討するため、ランダムドットで充填された正方形の中央領域を、上下左右のいずれかと、全方向に流動的にドットが移動する刺激を観察させ、奥行きの前後方向を報告させる課題を行った。その結果、ドットが一方向に移動する領域は手前に知覚され、全方向に移動する領域は奥に知覚される傾向が強かった。また中央領域のドットを定位置で点滅させる刺激では、点滅速度が速い(40fps)ほど、奥に知覚された。次に、円形を扇形に区分した刺激で静止状態のドットと、点滅、運動条件のドットの奥行きを比較する実験を行った。その結果、静止領域に対して、点滅領域は奥に知覚され、また運動情報をもつドット領域は、点滅領域より奥に知覚される結果が得られた。 後者の問題を検討するために、下視野のみではあるが、準暗室内にて直立時と歩行時に有効な視野範囲の計測を行った。下視野の偏心度50、60、70度の位置に、最小視角5度のアルファベット文字を提示し、読み上げ課題を行った。検出率と正答率を算出した結果、直立条件と比較して歩行条件は、対象を検出ならびに認識可能な視野が縮小することが示された。特に文字の読み上げには、形態認識のために細部情報が必要であるため、歩行によって高偏心度の認識を困難にさせることが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、運動刺激に対する奥行知覚量を測定し、視野位置における両眼立体視の解明を目指しているが、運動情報をもつ視標自体の奥行き手がかりの効果を無視できない。そのため当初予定していた偏心度60度までの周辺視野の立体視の測定よりも先に、運動対象物がもつ奥行き知覚への効果と、動的対象物を検出可能な視野範囲の検討を行った。 まず、ランダムドットに運動情報として点滅条件と移動条件を付加した結果、スタティックなドット領域と比較して、ドットが一方向に移動する領域は手前に知覚され、全方向に移動する領域は奥に知覚される傾向が強かった。またドット位置を変化させず、定位置で点滅させる刺激では、点滅速度が速い(本実験では40fpsまで)ほど、静的領域より奥側に知覚された。次に図地効果の1つとして、囲まれた領域が図になりやすい傾向を持つため、円形を扇形に区分した刺激で実験を行った。その結果、静止状態のドット領域に対して、点滅させたドット領域は奥に知覚され、さらに特定の方向を持たない移動情報をもつドット領域は、点滅するドット領域より奥に知覚された。以上のことから、運動視対象のもつ奥行き知覚への効果は、運動の方位と時間周波数の特性を持つことが示された。 次に、直立時と歩行時に有効な下視野の範囲の計測を行い、検出率と正答率を算出した。その結果、直立条件は、検出率が偏心度70度までほぼ100%であるのに対し、認識率が50度で75%、70度でほぼ50%となった。一方の歩行条件は、検出率が60度までは100%であったが、70度では50%まで低下し、認識率は50度で75%、70度でほぼ0%となった。動的対象物を検出可能な視野範囲は直立条件では下視野偏心度70度の対象物は検出可能であるが、能動的に運動している歩行条件の場合、同位置の検出率はほぼ半分に低下することが示された。
|
Strategy for Future Research Activity |
周辺視野領域における両眼立体視の特性を視野方向ごとに検討した後、有効な奥行き運動の手がかりについて検討する。奥行き運動の手がかりとして、本研究では中心視野は低速運動対象への両眼視差の時間変化(disparity change in time:DCT) を用いた奥行き運動知覚に特化したモデルと、周辺視野は高速運動対象への両眼間速度差 (inter-ocular velocity difference:IOVD) を用いた奥行き運動知覚に特化したモデルの検証を目指している。そこで、まず知覚可能な速度変化の有効範囲を設定する。視野位置ごとの有効速度を参考に、運動提示時間を変化させ、時間知覚と奥行き知覚を測定する。運動対象の両眼立体視の時間変化(DCT)、両眼間速度差(IOVD)、速度効果、ならびに運動対象の時間要因が、視野位置ごとの両眼性奥行き知覚に与える影響についての検討を行う計画である。
|
Causes of Carryover |
「物品費」所属機関が所持する液晶シャター眼鏡とモニターの使用許可が得られたため、対応可能なワークステーションを用いた実験システムの構築を予定していたが、専門業者への発注後、組立期間が大幅に延長され、27年度内の購入が出来なかった。尚、視覚運動情報の特性を確認するため、ワークステーションを用いずCRTモニターによる実験と所属機関の没入型VRシステムを用いて実験を行った。「謝金」所属研究室にて協力を仰ぎ実験を行ったため、予定額の謝金を計上していない。「旅費」国際学会(Vision Science Society 2016)は所属機関の雇用経費から支出いただいたため計上せず、国内学会(基礎心理学会・電子情報通信学会)のみ計上した。「その他」英語論文の校閲費・投稿費を所属機関のスキルアップ研究支援費に採択されたため計上していない。尚、上記論文は、校閲にて指摘された箇所を修正後、投稿予定である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
「物品費」前年度予定していたビデオカードを付属させたパーソナルコンピューター(ワークステーション)とそれに関連する接続機器を購入する。「謝金」ワークステーションを導入し、27年度に完了予定であった水平垂直軸ならびに45度の傾斜軸の奥行き知覚に関して、左右眼の重複視野と考えられる偏心度60度まで視野を広げ、両眼立体視の測定を行う。またこの結果を受けて、28年度に実施を予定していた、奥行き運動の手がかりについて、検討を行う。具体的には、各軸上の偏心度ごとに有効な運動速度を参考に、物理的に一定の速度で運動する対象への両眼性奥行き知覚が、運動時の時間知覚の影響を受けるかについての実験を行なう計画である。その実験参加者へは協力費として謝金を支払う。「旅費」学会での発表を行うため、参加費と交通費の申請を行う。「その他」得られた知見を学会誌へ投稿する際の校閲費(英文校閲費)と投稿料として申請を行う。
|