2018 Fiscal Year Research-status Report
偏光観測を用いた生命探査法の開発: 海の検出と大気の特徴づけ
Project/Area Number |
15K21296
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
高橋 隼 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 特任助教 (80648957)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 月食 / 地球照 / 偏光観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、3つの研究項目 (A) 海を持つ惑星の探査法開発、(B) 大気の光学的厚みの調査法開発、(C) 「大気透過光の偏光」を利用した惑星特徴づけ手法の開発で構成される。本年度は、(C) について追加の研究を行うとともに、(A)、(B) も並行して研究を進めた。 (C) について、2015年4月にすばる望遠鏡を用いて月食の偏光分光観測を行い、波長500-600nmで最大2-3%の偏光度を検出したことを前年度までに発表していた。観測された偏光は「光が地球大気を透過する際の非等方的な2回散乱」と「大気が持つ何らかの空間的非一様性」の組み合わせによって説明できることが分かった。光が惑星大気を透過する際に偏光が生じることがあり、「大気透過光の偏光」を利用して惑星の特徴づけを行える可能性を示したことは大きな成果である。一方で、「偏光の原因の一因である『大気の空間的非一様性』とは何か?」という新しい謎が生じた。そこで、本年度は、2014年10月に国内3箇所で得られた月食偏光観測データを解析し、2015年4月の観測結果と比較した。さらに、地球観測衛星のデータも取得し、2014年10月と2015年4月、2回の月食時の気象状況を調査した。その結果、2014年の月食時は2015年に比べて、偏光度が小さく、雲頂高度7km以上の雲の空間分布の非一様性も小さかったことが分かった。つまり、惑星大気透過光の正味偏光度が雲の空間分布に依存している可能性を示した (A)、(B)では、月面地球照の近赤外偏光観測を行う。観測を実現するため、前年度までに、兵庫県立大学西はりま天文台の3波長同時近赤外観測装置NICに偏光観測モードを追加した。本年度は、まず、NICの器械偏光を測定し、1%の偏光度を検出できる程度に器械偏光度が小さいことを確認した。そして、 NICによる地球照観測を開始した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
(A), (B), (C) 共通の研究テーマ「30m級望遠鏡での応用可能性の検討」は、予定を早めて、補助事業開始当初に実行し、すでに検討手法を確立した (Takahashi, et al., 2017, A&A)。 項目 (C) について、2015年の月食偏光観測 (Takahashi et al., 2017, AJ)により、有意な偏光の検出という興味深い結果を得たので、追加のデータ解析と議論を行い、惑星大気透過による偏光の原理についてもっともらしい仮説を提唱した (Takahashi et al. 2019, PASJ)。以上により、項目(C) は完了した。 項目 (A)、(B) で実施する予定の月面地球照の近赤外偏光観測を行うために、兵庫県立大学西はりま天文台の3波長同時近赤外観測装置NICに偏光観測モードを追加した。NICの器械偏光を測定し、1%の偏光度を検出できる程度に器械偏光度が小さいことが分かった (Takahashi et al., 2018, Stars and Galaxies, 1)。そして NICによる地球照観測を開始した。 興味深い観測結果により(C)の研究量が増加したこと、加えて、2018年度に研究代表者が2回の入院を伴う体調不良に見舞われたことにより、(A)、(B) の進捗が遅れた。そこで、補助期間延長申請を行った。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究項目(A)、(B)を完遂するため、西はりま天文台なゆた望遠鏡での月面地球照の偏光観測を集中的に実施する。共通の観測データを用いて、(A)、(B) 両方の研究を行う。 (A) については、上弦期と下弦期で、地球照偏光度に有意な違いがあるかに着目して解析する。下弦期の偏光度が上弦期よりも高い場合、その原因が海面による鏡面反射である可能性がある。西はりま天文台で下弦期の偏光度が上弦期よりも高い結果が得られた場合、南アフリカにある IRSF/SIRIUS でも月食の偏光観測を行う。 異なる場所からの観測結果を比較することで、上弦期/下弦期の偏光度の違いに、海面反射が寄与しているのかを確認できる。 (B) については、地球照偏光度の位相変化に波長依存性があるかに着目して解析する。
|
Causes of Carryover |
研究項目(C)の研究量が増大し、項目(A)、(B)に遅れが生じたため次年度使用額が生じた。項目(A)、(B)を実行する上での物品費(観測装置改良等)、旅費(研究会参加、観測等)、成果発表のための諸経費(論文投稿料等)等に使用する。
|