2016 Fiscal Year Research-status Report
逐次通訳における意味機能の制御と推論操作の緊張関係に関する基盤研究
Project/Area Number |
15K21303
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Research Institution | Okayama Prefectural University |
Principal Investigator |
南津 佳広 岡山県立大学, 保健福祉学部, 講師 (70616292)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 通訳学 / 通訳ノート / 認知語用論 / リスニング / スピーキング |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は、実験の目的と計画に基づき、理論的な基盤となる認知語用論の研究会に参加して、逐次通訳での産出局面で行う語用論的操作に関する知識を得たた。あわせて、逐次通訳や翻訳、認知語用論など、本研究に関連する分野の文献や論文をあたった。さらに、実験用の日・英・露のスクリプトを作成して、逐次通訳の予備実験を行った。まず、理論的側面についてまとめる。欧米で盛んにおこなわれている逐次通訳における通訳ノート(メモ)のこれまでの研究では、Rozanの経験則に基づく書式と、通訳者個人の経験則に基づく表記を用いるとの原則が主流ではあるが、これは外国語から母語へ通訳する欧米に主流のものであろう。むしろ日本の通訳環境でのメモを精査していると、日本の逐次通訳では状況が異なることが分かった。日本の通訳環境では、日本語へも外国語へも訳出するため、メモの書式は、固有の言語形式に左右されない論理形式、つまり、意味論レベルでの概念の連鎖を記述していることが分かった。メモの表記は、記号やアルファベット、漢字、カタカナを混ぜていることはこれまでの研究で分かっている。予備実験を行ったところ、記号やアルファベットで表記する場合は、原発言を聴取しメモに記述する労力を抑えて、産出局面での語用論的推論を働かせることに労力をかけており、一方、漢字やカタカナを使用する場合は、原発言を聴取する際に語用論的推論を働かせることに労力をかけて、その推論結果を表記している仮説が立てられた。次に、予備実験から、通訳者が原発言を聴取しながらメモを取り始めるまでの時間差を比較しても、当該部分を記号やアルファベットで記述しはじめる方が時間差は短く、カタカナや漢字を表記し始める方が時間が長い傾向があることが分かった。この仮説を担当授業にも応用したところ、リスニングとスピーキングの向上が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の目的と計画通り、おおむね順調に進んでいる。その理由は、理論的に補強を行い、スクリプトを完成させ、予備実験を行ったからである。予備実験から、これまでの研究では掘り下げてこられなかった、起点言語と目的言語間を交互に通訳する方式での通訳ノート(メモ)の取り方が、これまで提唱されてきた方式とは異なる可能性も明らかになった。さらに、メモの取り方を精査することで、通訳者がどの段階で語用論操作を行っているかをより可視化できる可能性も出てきたからである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、当初の計画通りに経歴十年以上の通訳者を被験者として、日英語間と日露語間の逐次通訳実験を行う。またその結果を論文にまとめる予定である。さらに、英語教育でも応用できる可能性ができたため、引き続き、担当科目にて導入し、英語運用力の向上の点でも調査を行う。
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Causes of Carryover |
使用額に誤差が生じた理由は、学内業務による海外引率と国際会議の日程が重なってしまい参加できなかったことと、実験を2017年度にずらしたためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度は実験や英語教育に応用した成果を国内外での会議で発表すし、データを作成する予定である。
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Research Products
(2 results)