2015 Fiscal Year Research-status Report
日本漢方黎明期における薬物理論の形成と発展に関する研究
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15K21345
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Research Institution | Teikyo Heisei University |
Principal Investigator |
鈴木 達彦 帝京平成大学, 薬学部, 講師 (70737824)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 漢方 / 生薬 / 能毒 / 曲直瀬道三 / 田代三喜 / 察証弁治 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国が中国医学の模倣からの脱却を果たし独自の日本漢方が興るにあたり、中心的な人物に田代三喜とその弟子の曲直瀬道三がいる。田代三喜は患者の症状にあわせて1つ1つ生薬を組み合わせてその都度処方をつくる察証弁治を確立し、曲直瀬道三は三喜の独特な察証弁治を受け継ぎ、また、新渡来の中国の医学書を吸収、融合して曲直瀬流の医学を確立し、江戸時代に発展して今日まで続く日本漢方の礎を築いた。 本研究では独自の発達を遂げた我が国の漢方医学の黎明期にあたる室町後期から江戸初期の本草(薬物書)資料を調査、整理し、薬物理論を解析し明らかにすることを目的としている。我が国の薬物理論において、独自の形成を促したのは、仏教医学の影響によるものとみられ、これらの概念が如何に薬物理論に影響し、治療法に寄与したかを、当時の漢方処方や治験例の解析を試みている。また、中国の影響下から離れ、一旦は独自に展開した薬物理論が、時代を経てどのように伝承され、経時的にもたらされる新しい中国の理論と如何に融合し、発展したかを明らかにすることを目的としている。 これまでの調査では、エーザイ内藤記念くすり博物館において「能毒」関連の文献を11点。武田科学振興財団杏雨書屋において「能毒」および、治験録である『出証配剤』の資料について11点。龍谷大学附属図書館において「能毒」、および、『出証配剤』関連の資料について5点。京都大学附属図書館富士川文庫において「能毒」関連の資料について3点。九州大学医学浮附属図書館において、「能毒」関連の資料について3点。以上について調査を行った。本調査によって得られたデータの1部は先行研究にあわせて書籍において報告した。また、平成28年度における学会発表を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に関して当初の想定より進展している点は、本年度予定していた武田科学振興財団杏雨書屋所蔵の『救急本草』についての調査を終え、すみやかにデータを解析できたことで、平成28年度に予定していた九州大学図書館の資料のうち『仮名能毒』と、京都大学附属図書館富士川文庫所蔵の「薬性能毒」関連の資料に関する調査、および、当初予定していなかったが、関連の研究により所蔵が明らかになった、龍谷大学附属図書館に所蔵される「能毒」関連の資料について、平成27年度中に調査を行えたことである。 しかしながら、杏雨書屋における調査のなかで、『出証配剤』に関する資料が、想定しているよりも多くの資料が存在していることが明らかとなり、追加の調査を平成28年度に行う必要が出てきたことで、若干の変更が生じているが、全体の計画に関しては概ね遅れはないということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は実施計画に沿って、曲直瀬流の薬物書について広範な調査を予定している。 研医会図書館に所蔵される『仮名能毒』と題する資料について、九州大学図書館所蔵のものとの比較検討を行う。また、『薬性能毒』の版本資料に関しても各地の図書館に所蔵されるものを調査し、元和9年版に関しては宮城県立図書館伊達文庫の資料について調査する。『注能毒』という資料が東京大学図書館鶚軒文庫に所蔵されていることから当資料についても調査する。刊本資料である『霊宝薬性能毒』、および、関連資料に関する調査を進め、その他関連文献に関しても広範に調査を行う。調査資料の整理については、平成27年度において作成したデータベース、および画像資料を随時参考にしながら行う。 また、平成27年度の調査において明らかになった『出証配剤』関連の資料についての追加調査も行い、薬物理論の臨床の場での展開を検討する。 調査により得られた資料において、生薬の薬効や薬精についてのデータベースの構築をし、薬物書の編纂の段階、過程を明らかにする。これらのデータベース、中国の薬物書の薬効と比較し、引用の傾向について検討し中国医学の影響について考察する。
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Causes of Carryover |
調査のための旅費に関して、調査先機関との調査日の調整が想定より順調に進み、同地域の複数の調査先を1回の旅程で調査を行うことが可能となり、その分の旅費、宿泊費を削減できたことが理由である。 また、調査資料の複写に関して、資料の頁数が予想していたものよりも少なかったため複写費用が少なかったことも理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画に大幅な修正は必要ないと考えている。平成27年度調査において、特に『出証配剤』の関連資料等の、当初の想定にはなかった資料を発見しており、これらの新出資料の調査費に充てる計画である。
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Research Products
(1 results)