2016 Fiscal Year Research-status Report
19世紀英国における能の受容:櫻井錠二・ストープスによる翻訳書出版の経緯の研究
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15K21347
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Research Institution | Kawamura Gakuen Woman's University |
Principal Investigator |
山名 順子 川村学園女子大学, 文学部, 准教授 (60645886)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 櫻井錠二 / マリー・ストープス / 大英図書館 / 能 / 能の翻訳 / 日本科学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本学術振興会創設メンバーの一員である科学者櫻井錠二の事績のうち、文化活動に焦点をあてた研究調査を実施した。 1、前年度に引き続き、櫻井錠二の事績のうち、文化活動、特に〈海外にむけた日本文化発信〉について再考するための手がかりとして、スコットランドの植物学者マリー・ストープスとの共著である能の翻訳書”Plays of Old Japan: The No”の再翻訳に着手、全体の2割程度を翻訳した。 2、翻訳書の内容を詳細に理解するため、能楽に関する書籍および視聴覚資料を購入すると同時に、能楽堂における能楽鑑賞を行った。 3、櫻井錠二の遺族、親族に対する聞き取り調査を複数回にわたって実施した。調査の内容は文字を中心として記録し、一部は許可を得て録音した。 4、櫻井錠二の事績を理解するため、櫻井の自筆資料および関連資史料の調査を行った。特に、前年度に調査を開始した大英図書館所蔵のマリー・ストープス宛往簡約200点のうち、新たに30点について実見調査および翻刻を実施した。その結果、書簡の内容から、能楽の翻訳のみならず、日本における科学教育発展に対する櫻井の強い熱意や周囲の人々への深い愛情が示されていることが理解できた。また、遺族より櫻井の手記(非売品)の委託を受け、書簡における記述との関連を確認する作業にも着手した。これらの研究結果は現在整理中であり、今後の調査結果と合わせて遺族・親族へ還元することを確認済みである。なお、今回の調査結果については、研究倫理に則って適切に処理することを含めて遺族・親族の了承を得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1、大英図書館所蔵の資料に関して、当初確認していた規約とは異なる保護規約が適用されており、写真撮影が許可されなかった。そのため、資料調査は現地での作業を中心に進める必要があり、予定より時間を要する。また、今回は現地の滞在時間を充分に確保することができなかった。そのため、計画のに遅延が生じている。一方で、資料には様々な要素が記述されていることから、今後は新しく見出した記述内容と関わる研究団体との連携を図る必要が見いだせた。これらの研究団体には、平成29年度より加入の予定である。 2、ご遺族への配慮の必要性から、資料の購入や研究調査結果の発表についてはより一層慎重に行う必要が生じている。計画自体には著しい影響はないが、特に調査結果の発表については、ご協力とご許可を得ながら進める予定である。 3、1・2の事由につき、当初予定していたよりも調査・翻訳の進行がやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度、28年度に引き続き、櫻井錠二の文化活動についての研究調査を実施する。 1、従来の研究およびこれまでの研究結果をふまえたうえで、櫻井錠二の人物および著作に関する年表再編成の準備を継続する。 2、上記計画1の準備作業の一環として、平成28年度に引き続き、遺稿・書簡当の資料調査を実施する。特に、大英図書館所蔵の櫻井による往簡の調査を重点的に実施し、約200点の書簡すべての内容を翻刻・翻訳することをめざす。また、遺族・親族を対象とした聞き取り調査や資史料の借覧を継続する。 3、”Plays of Old Japan: The No”の翻訳を継続し、外国人翻訳者による能の翻訳書との比較を行うための準備を進める。そのなかで、櫻井のいう〈精確な翻訳〉の根拠を模索することをめざす。 4、書簡における記述をもとに、日本科学史研究者との交流を開始するほか、能楽研究者とのさらなる交流をとおして、各分野における視座の共有をめざすほか、櫻井錠二研究における本研究の位置づけを明らかにすることを試みる。また、研究の成果を研究会で発表し、大方の御批正を仰ぐ。
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Causes of Carryover |
1、平成27年度にご遺族の意向により、書籍購入に関して当初の計画と大きな差額が生じたため。 2、資料調査聞き取り調査が当初の計画に比して減少したことに伴い、主に旅費の大幅な軽減が生じたため。また、当初予定していた研究発表計画の中止により、旅費に差額が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1、大英図書館(英国ロンドン市)所蔵の櫻井錠二自筆書簡調査にかかわる旅費として利用する。英国への研究旅行は夏季休業中に充分な時間をとって実施する予定である。また、国内の資料所蔵先である石川県立博物館(石川県金沢市)への調査旅行費用として利用することを計画している。なお、今年度までの研究成果を発表するための学会参加および交通費にも充当する予定である。 2、平成28年度に開始した、櫻井錠二の日本科学史における位置づけを理解するため、当該研究会入会に関わる費用として利用する。また、”Plays of Old Japan: The No”に関わる演目を中心として、比較文学の対象として能楽を鑑賞するための費用として利用する。これに加えて、研究調査に関わる必要書籍や資料の購入を継続するための費用とする。購入書籍はご遺族の意向に従い、慎重に選択する。
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