2016 Fiscal Year Research-status Report
贖罪思想の発展と社会的影響:社会運動と人権理念の法制化への影響
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15K21350
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
森島 豊 青山学院大学, 総合文化政策学部, 准教授 (70468388)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Atonement / 贖罪思想 / 人権の法制化 / アジア社会改良運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度の研究において、昨年に引き続き、贖罪思想の社会的影響の一つとして人権法制化への運動に注目した。人権理念の成立と法制化の過程にはキリスト教の影響があり、英国と米国において贖罪信仰に基づく信仰復興運動が大きな要因の一つとして作用していることが分かった。この研究の重要性は、その影響が日本にも入っていることを明らかにし、特に日本国憲法の制定にまで影響していることを実証したことである。具体的には自由民権運動家を通して日本に入り、それが吉野作造と鈴木安蔵を通して日本国憲法の制定にまで影響していたことである。 この研究成果の意義は二つある。第一は、従来人権理念の影響が入ったのは第二次世界大戦後と考えられていたが、明治期に既に影響が入っており、しかも日本人の主体性に潜在的な影響を与えていたこと実証したことである。第二は、人権理念の法制化を進めた米国建国の祖父たちが、信仰復興運動を担った大衆に支えられており、その運動が贖罪思想に基づいていることを明らかにしたことである。この研究内容の報告は、2015年中外日報社の『涙骨賞』最優秀賞を受賞し、その一部分を『人権思想とキリスト教』(教文館、2015年)として書籍化した。 また、贖罪思想のアジアにおける社会的影響についても新たな発見があった。調査の段階で、特にタイへの影響が中国を経由していることが判明した。贖罪思想に基づく社会改良運動は伝道を通してアジアへ入ってきたが、その拠点は中国であった。ところが、革命によって中国伝道が不可能になり、新たな伝道地を開拓するため、タイやフィリピンへ向かった。その拠点は、当時英国領の香港であった。 アジアへの影響の重要性は、中国伝道の挫折という仕方で社会改良運動がタイへ向かったことと、19世紀の贖罪思想に基づく社会運動と20世紀のタイへの伝道が運動の系譜として結びついていることを発見したことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、キリスト教の贖罪思想の社会的影響について、第一に19世紀以降の英語圏における学問領域と社会運動への影響、第二に人権思想の法制化への影響、第三にアジアの発展途上国における現代の社会問題に対する影響と効果を調べる計画であった。その中で、第二の人権思想の法制化への影響について大きな成果を表すことができた。特に、その影響が現在の日本国憲法の成立にまで影響していることは、研究調査の中で新たに発見した事柄であり、研究報告が中外日報社の最優秀賞を受賞し(2015年)、その一部を書籍化(2016年)ことは当初の計画以上に進展していることを物語っている。 第三のアジアの発展途上国における社会問題に対する影響について、当初19世紀の社会運動と現代の運動との結びつきが不明であったが、中国伝道の挫折という仕方で、贖罪思想に基づく社会運動がタイに入ったことが解明できた。また、香港を拠点としていたことで、英国の贖罪思想の影響が社会運動という仕方でタイに入ったことが判明したことで、この点でも当初の計画以上に進展していると認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策について、①19世紀以降の英語圏における学問領域と社会運動への影響の解明と、②アジアの発展途上国における現代の社会問題に対する影響と効果を深く掘り下げて調査する。 ①においては、ピューリタニズムの影響を受けたメソディズムの信仰復興運動が社会改良運動の基盤となっており、その贖罪信仰が19世紀の神学者(モーリスやモバリー、そしてフォーサイス)に与えた影響に注目する。②においては、中国の社会改良運動で大きな役割を果たしたリチャード・ティモシーの思想とその後の影響を解明し、彼の思想史的影響とアジアへの社会運動とのつながりの解明を目指す。
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Causes of Carryover |
昨年度は執筆に多くの時間を割いたため、物品購入と旅費は使用しておりません。また本年度に研究成果を吟味するために複数の研究会の開催を計画しており、さらに手薄になっているアジアでの資料収集に使用するため、昨年度の研究費を本年度に回す必要を考え、「次年度使用額」が現状のようになりました。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度は研究成果を吟味するために複数の研究会の開催を計画している。さらにタイ・フィリピンにおける贖罪思想の社会的影響を調べるため旅費に用いる予定をしている。また、LOGOS BIBLE SOFTWAREで多くの関連書物を電子書籍として購入し、本研究の主題となっているAtonementの用語を英語圏の神学者たちがどのように使用していたかを調べる予定である。
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Research Products
(7 results)