2015 Fiscal Year Research-status Report
非酵素型カルパインによるRhoA活性制御機構とその筋組織における役割の解明
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15K21367
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
礪波 一夫 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (70511393)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | カルパイン / 筋分化 / 細胞骨格 / 低分子量Gタンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、「CAPN6存在下ではGEF-H1はRhoAを、CAPN6非存在下ではRac1を活性化する」という作業仮説を、培養細胞を用いたCapn6とGEF-H1の過剰発現(OE)とノックダウン(KD)の組み合わせ実験から検証した。これまでの本研究の成果(Tonami et al. J. Cell Sci. 2011)から、後者については、これを支持する実験結果を得て来た。一方、前者即ちCAPN6存在下におけるGEF-H1のRhoA活性化能については、Capn6とGEF-H1の同時OEがストレスファイバーの形成を亢進しなかったこと。また、Capn6のKDにおいてはRhoAに対する活性化能が抑制されたGEF-H1の分子型(S885がリン酸化)が減弱してたこと、即ちコントロール細胞(CAPN6存在下)においてはCAPN6をKDした場合と比較して、RhoAの活性化能が抑制されたGEF-H1分子型がより多く存在することが明らかとなった。以上の結果から、CAPN6によるRhoAの活性化の分子メカニズムについて、GEF-H1とは異なる分子経路あるいはGEF-H1以外の付加的な分子が関与している可能性が示唆され、CAPN6の細胞骨格制御機構に関して、これまでとは異なる新しい視点を与える結果を得ることが出来た。一方、これまでCapn6 KO(ノックアウトマウス)の解析から、CAPN6は骨格筋の発達を抑制していることを明らかとしてきたが、当該年度はCAPN6のRhoA活性制御のin vivoにおける役割を検証した。その結果、成獣マウス骨格筋から樹立した骨格筋初代培養細胞の分化誘導実験において、Capn6 KOにおける骨格筋の分化促進にRhoAの活性制御が関与していることを明らかにし、CAPN6の細胞機能と組織における生理機能を「RhoAの活性制御」というキーワードでリンクすることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の当該年度の進捗状況について、①「CAPN6存在下ではGEF-H1はRhoAを、CAPN6非存在下ではRac1を活性化する」という作業仮説の検証、②CAPN6によるRhoA活性の組織形成における役割の検証、③CAPN6と病態(筋ジストロフィーおよび腫瘍病変)との関連の解析の3点に分けて述べる。①については、培養細胞を用いたCapn6とGEF-H1のOEおよびKDにより、CAPN6はGEF-H1との相互作用を介してRac1活性を制御しているが、RhoA活性の制御については、他の分子あるいは他の制御系が存在していることが示唆された。また、KDとOEの表現型から、CAPN6との相互作用分子の候補としてファミリーでCAPN6と最も構造的類似性の高いCAPN5が新たに示唆された。一方、Rho活性の制御に直接関与する分子群(Rhoキナーゼ、RhoGDI、GAPs、Rho-GEFs)との関連については未検証の状況である。②については、骨格筋初代培養細胞の分化誘導実験においては、細胞の多核化率を比較することで筋分化を評価したが、Capn6 KOにおいては野生型より骨格筋の分化が促進していることが示されていた。そこで、これがCAPN6によるRhoA活性抑制を介したものかを検証するため、骨格筋初代培養細胞にRho ActivatorⅡを処理したところ、Capn6 KOの多核化細胞発現率を野生型のものと同程度にレスキューすることが出来た。この結果から、CAPN6の胎仔筋における分化調節機能がRhoA活性を介したものであることが明らかとなった。③については、Capn6とCapn3の二重変異マウスの作出に成功し、病変部位を切片により解析したが、Capn6 KOによる顕著な差は今のところ認められていない。特に①について、当該年度の研究計画が未達成な部分があるため(3)やや遅れていると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度の研究の進捗から、CAPN6によるRhoA活性調節においてGEF-H1以外の分子が関与している可能性が示唆された。そこで、今後はRhoA活性抑制におけるCAPN6の相互作用分子をRhoキナーゼ、RhoGDI、GAPs、Rho-GEFs(p63RhoGEF、p115RhoGEF、p190RhoGEF)にターゲットを絞り、OEやKDによる細胞の表現型の解析、および免疫沈降による結合の解析を行う予定である。また、当該年度の研究からCAPN5がCAPN6との相互作用分子の候補として挙がってきているため、CAPN6とCAPN5の結合についても解析し、両分子の相互作用がRhoAの活性調節に関わっているのか、またCAPN5の関与が示唆された場合はRhoAの活性調節においてどの様な分子がCAPN5の基質となっているのか、そしてCAPN6がCAPN5の酵素-基質反応にどの様に関与しているか(ドミナントネガティブとして、あるいは安定化因子として作用している等)を明らかにする予定である。骨格筋の分化との関連においては、CAPN6がRhoAの活性化を介して骨格筋の分化を促進している可能性が強く示唆されたため、Capn6 KOの胎仔筋あるいは骨格筋初代培養の分化誘導系を用いて、RhoAの活性化が培養細胞と同じようにCapn6 KOにより抑制されているのか、またRhoAの活性化により転写調節される筋分化因子MyogeninやMyoDの発現が変化しているのかを検証する。子宮病変においては生後早い段階で高頻度に腫瘍の発生が見られるp53欠損マウスとCapn6の二重変異マウスを作出中であり、Capn6 KOの子宮において腫瘍形成が促進されるか、またその病変部での細胞浸潤の様子や低分子量Gタンパク質の活性状態を解析し、CAPN6と腫瘍病変の進展の相関とメカニズムについて明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
本年度はCAPN6によるRhoAの活性制御機構について、当初考えていたGEF-H1による標的のスイッティング仮説「CAPN6存在下ではGEF-H1はRhoAを、CAPN6非存在下ではRac1を活性化する」について、GEF-H1の制御以外の分子やシグナル経路を想定する必要が生じ、実験の実施状況に遅れが認められた。このような理由から、当該年度は学会発表にまで至る十分な進捗が得られず、旅費使用予定額が執行できなかったため、一部は物品費やその他の用途で使用したものの、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は当該年度で未達成だった実験項目があるため、次年度使用額をこれに使用する予定である。
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Research Products
(2 results)