2016 Fiscal Year Research-status Report
20世紀前半の中国における医学近代化の構造:蘇州国医医院の事例を基に
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15K21371
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
村田 慶子 (大道寺慶子) 慶應義塾大学, 文学部(三田), 講師(非常勤) (90725152)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 医学史 / 東洋史 / 中国医学 / 漢方 / 日中交流 / 日中戦争 / 体質 / 結核 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1939年~1941年に蘇州で開設された、中国医学の病院「蘇州国医医院」の活動を例にとり、伝統医学と科学が折衝する過程および、その社会的・文化的意義について分析する。蘇州国医医院が開設された時、蘇州は中国における日本の傀儡政権の一つ、中華民国維新政府の統治下にあった。当該医院を運営していた中心メンバーは、中国医学を近代化しようとする改革派であり、同時代の漢方復興運動を牽引した日本の漢方医たちと、技術・学術の面で、交流を深めていたことがわかっている。
(1)昨年度の研究実績としては、①蘇州国医医院の運営形態や政治的役割と、中国におけるナショナリズム・日本の大東亜共栄圏のイデオロギーを結びつけた。②また病院の治療記録から、診断法や処方の内容に、日本漢方からの影響を見出せる点を指摘した。主な資料としては、蘇州において、中国医学・改革派の医師たちが中心になって刊行物した『蘇州国医雑誌』や、病院の刊行物である『蘇州国医医院院刊創刊号』、さらに日本漢方の復興を志す医師たちが設立した東亜医学協会の活動記録や医師たちの私信、中華民国維新政府の活動記録等を横断的に用いた。
(2)第二に、伝統医学が近代科学といかに相互連関していたかを、より大きな史的文脈でとらえるため、20世紀前半に西欧から萌芽した、医学における全体観(Holism)に着目した。東アジアにおけるMedical Holismの展開を考察するにあたり、20世紀初頭に導入された「体質」の概念が特に重要であると考える。「体質」が、身体・病を理解するうえで、核となった過程を明らかにするため、結核の病理論に焦点をあてた。結核における体質論を通して、「体質」の通史を構築しようとする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中国医学・漢方の近代化、および体質の歴史について、国内外で発表を行ったほか、East Asian Science, Technology and Society: An International Journalに査読付の共著論文を発表し、またMedical Historyに、書評を投稿した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の予定としては、20世紀前半に展開した、医学における全体主義(Medical Holism)が、どのように近代の東アジアの身体観や病観を形成するに至ったのか、「体質」の概念を中心に考察し、それを論文として2本まとめ、発表する予定である。
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Causes of Carryover |
出席した国際学会が、欧米ではなく中国や国内で開催されたので、予定よりも旅費を低く抑えることができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
20世紀前半の欧米におけるMedical Holismについて調査するため、18-19世紀の一次資料を多く所蔵する英国の医学史図書館、Wellcome Libraryでの調査を計画している。
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