2017 Fiscal Year Annual Research Report
The modernizing transformation of traditional medicine in early-twentieth century East Asia: the case of the Suzhou Hospital of National Medicine
Project/Area Number |
15K21371
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
村田 慶子 (大道寺慶子) 慶應義塾大学, 文学部(三田), 講師(非常勤) (90725152)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 全体医学 / 自家中毒 / 免疫 / 体質 / 腺病質 / 肺結核 / 体質改善 / 生態学的疾病論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は3年間の研究の総括として、現代の日本人の身体観・疾病観の核となる二つの概念を取り上げ、それらの意義を医学および歴史の文脈において分析した。
第一は「毒」の概念である。具体的には20世紀初頭、免疫学の分野で提唱された「自家中毒autointoxication(腸内腐敗菌)」が、どのように日本で受容されたかに着目した。自家中毒は、日本では次第に適応障害により体内で起きる中毒症状を指すようになり、1970年代頃まで小児科や精神科で一般的に使用されていた。その医学的・文化的な表象の分析を通して、日本人が近代化に対する精神的反応の一つとして自家中毒を位置づけたこと、その際、伝統医学の毒概念のリモデリングが行われたことを明らかにした。第二は「体質」の概念である。訳語のconstitution等は古典西洋医学に遡るが、日本で「体質」が一般的になったのは20世紀に入ってからである。その確立については不明な点が多かったが、当時の西欧で興隆した全体論医学medial holismの影響を受けていた点を指摘した。体質は人々の体力・性格・特定の病気に罹患しやすい傾向などを総合的に表す語として広く人口に膾炙した。具体例として、肺結核に罹りやすい体質と考えられた「腺病質」を取り上げ、体質概念が病気の診断・治療・予防にどのように適用されたかを考察した。それは人間と環境・遺伝の新しい関係性の構築であり、また西欧との比較より、日本の体質論は先天的な素因よりも後天的な環境や個人の努力による改善を重視する傾向があると論じた。
以上により本研究の目的である、近代過程における医学知のグローバルな伝播と、ローカルな人々の病経験や身体観とを結び付けることを達成した。今後は、20世紀の東アジアにおけるmedical holismについてより多くの事例を考察し、それらを巨視的に記述することを目指している。
|