2015 Fiscal Year Research-status Report
宋~清代中国の地方志編纂の展開―編纂過程と治績記載を手がかりに
Project/Area Number |
15K21439
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小二田 章 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (10706659)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 近世中国 / 地方志 / 編纂過程 / 時代性 / 地方官 / 治績 / 地域社会 / 杭州 |
Outline of Annual Research Achievements |
目的:本研究は、中国の宋代以降における「地方志」の編纂活動と社会変容との関連を検討し、最終的には、地方官と地域社会の接点に発生する社会秩序の変遷史を描くこと、及び近世東アジアにおける類似の書物を生みだす社会背景を検討する比較研究の基盤を造ることを目標としている。本年度は、その段階のひとつとして、これまで行ってきた宋代地方志に関する研究の拡大、及び新たに元代~明代の地方志編纂を対象とした研究への着手を図る。 研究方法:基本的には、「地方志」について、その編纂過程、及び編纂主体である地方官と密接に結びついた「治績」項目について、書誌学的状態も含めて丹念に検討することで、「地方志」の歴史的位置づけを明らかにする。申請者は、特に宋代以降地方志を数多く編纂した杭州地域を主な場とし検討を行う。具体的には、南宋期の杭州の地方志編纂に関わる背景を、仮の都「臨安」が首都として認知されたのか、という問題と併せて考える。元代は、『大元一統志』という国家事業と、個別の地方志との関係を検討する。明代では、明末の全国的な地方志編纂ブームの一環にある『萬暦杭州府志』を取り上げ、地方志編纂ブーム自体の背景理解を試みる。 研究成果:まず、『萬暦杭州府志』については、その撰者である陳善の宋代に関する記載・明代に関する記載の二つの側面から分析を行い、陳善が元地方官としての見地から、過去および現状の杭州に対する問題意識を地方志に反映させたことを明らかにした。また、『大元一統志』については、蘇州の「沿革」項目を手がかりに、その編纂が地方で編まれたものを比較的そのまま掲載していること、また宋代の資料の参照の仕方、明代の地方志への記載継承を明らかにした。さらに、南宋期の三種の『臨安志』について、それらの編纂意義の検討をすすめた他、『咸淳臨安志』については、編者・潜説友についての伝記的検討と、現存の版本の詳細理解を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前述した本年度の目標である、「宋代地方志に関する研究の継続と拡大、及び新たに元代~明代の地方志編纂を対象とした研究への着手」については、①三種の宋代『臨安志』に関する研究、②『大元一統志』の編纂過程に関する分析、③明代『萬暦杭州府志』の研究によりある程度の成果が達成された。その内、①については、乾道・淳祐の『臨安志』の編纂意義について、「『乾道臨安志』と『淳祐臨安志』―南宋期地方志編纂をめぐって」(第182回宋代史談話会、於大阪市立大学、2015年12月)として学会報告を行ったほか、『咸淳臨安志』の撰者・潜説友について、「《咸淳臨安志》的編者潜説友」(第三屆中国南宋史国際学術研討会、於星都賓館(杭州)、2015年11月)にて報告を行い、また北京・国家図書館にて調査を行った。②については、蘇州「沿革」の形成と『大元一統志』の編纂過程についての論考を制作し、2016年7月刊行予定の論文集『宋代から考える』にて掲載予定、また2016年8月の中国宋史年会にて報告予定である。加えて、その派生的検討として、北京大学図書館にて『寶慶昌国縣志』の調査を行った。③については、その撰者・陳善の宋代に対する意識について論稿を制作し、『史学』第85巻1-3号第二分冊(三田史学会)にて掲載されたほか、明代に対する意識については、明清史夏合宿2015(於筑波山江戸屋、2015年8月)にて報告を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
前述した成果の内、いくつかの学会報告によるものについては、さらに検討を深め、論文としての掲載・公開を図る。また、『萬暦杭州府志』の研究については、どのように該書が現在まで残存したか、及び当時の杭州社会との関係について、検討を行い、該書に関する研究のまとめを行う。それらに加えて、次年度の計画である「北宋杭州の治績研究の総括、及び清代の地方志編纂を対象とした研究への着手」にとりかかるため、北宋期杭州の代表的「名地方官」であった蘇軾が、どのように「名地方官」としての名声を獲得したのかについての検討、清代の『乾隆杭州府志』の編纂過程の検討を行う。それらに加えて、明代地方志の貴重書所蔵で有名な寧波・天一閣、あるいはアメリカのハーバード燕京研究所を訪問し、調査を行う。
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Causes of Carryover |
年度末締切(1月末)に際し、3月の調査旅行の移動費を計上したが、その際に端数の余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
小額であるため、消耗品の補助として費消する予定である。
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