2015 Fiscal Year Research-status Report
南アジアにおけるイスラーム改革思想の形成についての研究
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15K21440
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
石田 友梨 早稲田大学, アジア太平洋研究センター, 助手 (60734316)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イスラーム改革思想 / シャー・ワリーウッラー / 南アジア / ウラマー / イスラーム法学 / アラビア半島 / マーリク法学派 / デジタル・ヒューマニティーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、南アジアにおけるイスラーム改革思想の形成について明らかにすることである。その目的を達成するために、初年度では南アジアのイスラーム改革思想家シャー・ワリーウッラー・ディフラウィー(Shah Wali Allah al-Dihlawi, 1703-1762)に研究対象を絞った。 具体的には、シャー・ワリーウッラー・ディフラウィーがイスラーム改革思想を学んだとされるアラビア半島の二聖都(マッカとマディーナ)において、実際にどの学者にどのような学問を学んだのかについて、彼の自伝『二聖都の師たちの瞳孔』より明らかにした。また、同書に言及されている二聖都の著名な学者たちの師弟関係や、継承された学問の内容についても、デジタル・ヒューマニティーズの手法を取り入れた分析を行い、次の三点を明らかにした。 1.マーリク法学派の開祖の著書は、当時ほぼすべての学者が学んでいた必須の教養書として位置けられること。 2.マーリク法学派である学者の数は少なく、師弟関係は法学派の相違を超えて結ばれていたこと。 3.イスラーム改革思想が形成された17世紀から18世紀の間に、学問の中心地がエジプトからアラビア半島の二聖都に移っていること。 以上より、イスラーム改革思想に大きな影響を与えたとされる北アフリカのマーリク法学派の影響については、再考の余地があることを指摘できる。これらの研究成果については、国際学会で発表した後、論文を執筆し、学術誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の課題であった文献調査については、必要な文献の収集と入手方法の確認をほぼ終えることができた。デジタル・ヒューマニティーズという新しい研究手法を導入したため、研究手法の確立までに時間を要することが予想されていたが、研究対象を絞ったことにより、初年度中に国際学会での発表と学術誌での論文掲載を達成することができた。さらに、研究成果の発信を通じて、今後の研究対象や克服すべき課題についても明らかにすることができたため、次年度は研究の基盤である原典分析に取り組む時間を予定よりも多く確保できる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度では、二聖都におけるシャー・ワリーウッラー・ディフラウィーの師弟関係に研究対象を絞った。今後は、シャー・ワリーウッラー・ディフラウィーの出身地であるインドにおける彼の師弟関係へと分析の範囲を広げる。さらに、南アジアにおけるもうひとりのイスラーム改革思想家アフマド・スィルヒンディーとの繋がりを考察する。以上により、シャー・ワリーウッラー・ディフラウィーの思想のどの部分が二聖都の学問に影響を受けたものであり、どの部分がインドに継承されてきた学問の影響を受けたものであるかを明確にする。シャー・ワリーウッラー・ディフラウィーを実例とし、アラビア半島とインドの学術交流の実態を描くことを目指す。 一方、デジタル・ヒューマニティーズを活用した分析手法については、アラビア語の入力や、複数の文献に基づくデータの管理方法などの点で課題が残るため、情報学の専門家からのさらなる協力を求めていきたい。
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Causes of Carryover |
申請書提出時に研究協力者となる予定であった人物が、一年間海外で就業することになり、共同で研究を進めていくことが困難となったため、予定していた人件費および謝金の一部を支払う必要がなくなったことが、第一の理由である。それに伴い、研究協力者の研究環境を整えるために計上していた物品費等の予算を執行する必要がなくなったことが、第二の理由である。 第三の理由は、科研費の旅費によって予定していた海外学会への参加を、非常勤の授業の予定が入ったことにより中止したためである。さらに、科研費以外の単年度の研究資金を獲得したため、時間的な制約により、改めて計画した海外調査の期間も短いものとなってしまった。以上の理由により、予算との相違が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費および人件費・謝金の使用計画については、以下のとおりである。本研究推進のためには、情報学の専門家からの協力が不可欠である。新たな研究協力者を得るため、また、今回のような不測の事態が起こらないよう、複数の研究協力者を確保することに努めたい。翌年度分として請求した助成金と合わせた十分な額の謝金を提示するほか、所属先の変更に伴う研究環境整備のための物品購入に使用する予定である。 旅費については、以下のとおりである。海外への渡航計画は、予め授業期間外に集中させることにより、急な予定の変更にも柔軟に対応できるようにする。また、翌年度分として請求した助成金と合わせることで、より長い期間の調査滞在を実現させ、研究を推進させることに努めたい。
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