2016 Fiscal Year Research-status Report
多成分流体系に対する拡張された熱力学理論の展開と応用
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15K21452
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
有馬 隆司 神奈川大学, 工学部, 助教 (80735069)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 非平衡熱力学 / 多成分流体 / 拡張された熱力学 / 数理工学 / 流体工学 / 非平衡温度 / 実在気体 / 体積粘性率 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、多成分流体中の強い非平衡現象の解明のために前年度構築した、拡張された熱力学(ET)に基づく多成分流体理論の整備・発展を行った。得られた成果を以下に示す。 (1)多成分流体に対するET一般論の構築:多成分流体系に対するETの基礎方程式系は、構成成分が一成分の場合と同じ支配方程式に従うと仮定することにより導出される。独立変数の数に依らない一般の場合において、熱力学第2法則に基づいた解析により、エントロピー密度・流束・生成の具体的表式を導出し、それらの特性を明らかにした。前年度得られた方程式系のガリレイ不変性に基づく構成関係式と合わせて、一般論が構築できたといえる。 (2)多成分流体に対する6変数ET理論の整備:構成成分が成す系が流体力学的物理量と非平衡圧力の6変数で特徴づけられる場合の特性速度を導出した。特性速度は、超音波の位相速度の高振動数極限値、および、衝撃波において不連続面が現れるマッハ数という物理的意味を持つ。また、理論の数理的な面の整備として、well-posedなCauchy problemであること、そして、滑らかな初期条件のもとで大域解が存在することを明らかにした。この成果を上記(1)と合わせて論文として出版した。 (3)非平衡圧力の起源の解明:多原子分子希薄気体が、その構成分子の各内部自由度が成す系の混合系としてみなし得ることを発見した。このとき、各内部自由度が成す系を特徴づける非平衡温度が自然と導入される。特に、非平衡圧力が並進運動に関する非平衡温度によって記述されることを明らかにした。 (4)実在流体に適用可能なET理論の構築:既存のET理論は高密度領域の実在気体や液体への適用に困難を伴っていた。実在流体を表す分子の各内部自由度に対応した非平衡温度を導入することで、実在流体に適用可能な理論の構築に成功した。上記(3)と合わせて本結果も論文として出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画にくわえ、非平衡現象の理解について新しい局面を開拓できていることが理由である。具体的には、下記の通りである。 (1)多成分流体に対するETの一般論が構築できたことで、粘性や熱伝導の効果も含んだ14変数理論の構築が可能となった。従来の不可逆過程の熱力学に基づく理論とは異なり、高次の散逸的物理量のダイナミクスも解析可能であるという特徴がある。 (2)得られた理論の応用として、超音波の分散関係および衝撃波波面構造の解析も進展している。具体的な数値解析について、国内外の研究者との議論も進んでいる。解析に必要となる各種散逸的物理量の交差効果については、次年度の課題として残る。 (3)今まで十分に解明できていなかった、非平衡圧力の起源について新しい知見を得ることが出来た。特に、内部自由度が成す系の間の相互作用が非平衡状態を本質的に特徴づけていることを明らかにできた。 (4) 実在流体中の非平衡現象は、気体分子運動論の適用が困難であり、ETによる現象論的な手法が求められていた。本年度得られた結果は、低密度領域に限られていた既存のET理論の適用範囲を格段に拡げることが可能な新規性のある成果であり、大きな発展が期待される。例えば、これまで困難であった相転移を伴うダイナミクスや波動現象における実在流体効果の解析が可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では、これまでの研究をさらに発展させるため、以下の研究を行う。 (1)多成分流体に対するETの理論構造について、更に詳細に検討する。特に、Maxwellの逐次近似法と呼ばれる手法を用いることで、散逸的な物理量の交差効果を系統的に調べることを計画している。特に、この近似手法によって非平衡圧力と関係づけられる体積粘性率に関して、系全体の体積粘性率と構成成分が成す系の体積粘性率がどのような関係にあるのかを明確にする。 (2)現在進めている超音波の分散関係の解析をまとめ、実験との比較による理論の妥当性の検証を行う。また、体積粘性による超音波の特徴的な緩和が、混合気体効果によって受ける影響を調べる。 (3)衝撃波の波面構造の数値的解析を進める。非線型効果による各種物理量間の複雑な相互作用が解析の困難となっているため、まずは理論的な整備を行う。 (4)14変数理論を用いた定常熱伝導現象の解析を計画している。一成分系の解析結果から、不可逆過程の熱力学との差異が現れることは明らかなので、その定量的な評価を行う。特に、一成分系では比熱が熱・質量輸送に本質的な影響を及ぼすことが明らかになっていたので、多成分流体におけるその効果を調べる。 以上の研究にくわえ、3年間の成果を整理することで、今後の研究の展望をまとめ、国内外に発信する。
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Causes of Carryover |
科研費を使用して開催した国際的な研究会の日程上、予定していた国内学会に参加できなかった。そのため、旅費の使用が予定より少なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究打ち合わせのための旅費(ヨーロッパ、国内)、研究成果発表旅費(ヨーロッパ、国内)、計算機環境消耗品に使用する予定である。
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Research Products
(7 results)