2015 Fiscal Year Research-status Report
わらべうたを手がかりとした音楽学習における知識変換プロセスに関する研究
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15K21463
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Research Institution | Tokyo Future University |
Principal Investigator |
森 薫 東京未来大学, こども心理学部, 講師 (90624859)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 音楽科教育 / わらべうた / となえうた / 知識 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、子ども達がうたうわらべうたを手がかりとしながら、音楽学習における知識の実践的展開について明らかにすることである。この目的を達成するためのサブ目的として、①となえうた「どれにしようかな」の採集調査と分析②わらべうたの実践と新たなヴァージョン創出の過程を知識という視点から捉えて考察すること③音楽学習における知識の実践的展開について、そのプロセス・モデルを提示すること、の3点を設定している。 平成27年度は、3ヵ年計画の初年度にあたる年度であった。計画段階では以下を予定していた。まず日本各地の幼稚園・保育所・小学校に赴き子ども達からとなえうたの採集を行うこと、そして採集したデータを分析すること、となえうたをうたう際の身体のあり方や共同性について検討すること、更に、新しいヴァージョンのとなえうたが生み出される際の子ども達の会話を分析することである。 当該年度の研究の成果についてであるが、まず、採集調査については、予定していた調査地を変更・増加させ、計画よりも多くのデータを集めることができた。また、採集したデータの一部を分析・検討した結果を、日本音楽教育学会の大会にて口頭発表のかたちで報告することができた。さらに、日本教材学会の学会誌「教材学研究」27巻に、研究報告が掲載されることとなっている(平成28年4月現在、掲載決定印刷中)。ここでは、エンゲストロームの活動理論を手がかりとして、となえうたの新しいヴァージョン創出の仕組みを検討し、音楽科の教材化に向けての基礎的検討を行った。 平成27年度に行った研究のうち、となえうたをうたう際の子ども達の身体のあり方についての検討、新しいヴァージョン創出の際の子ども達の会話に関する分析は、十分には行うことができていないと考えている。これらの課題について、平成28年度以降に取り組んでいく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採集調査の状況と、分析・検討した内容の発表状況について、それぞれ以下のとおりである。 まず採集調査についてであるが、当初予定していた採集調査地は東京、埼玉、秋田、福岡、宮崎であった。しかし学会口頭発表時に全国の小・中学校の先生方からお声掛けを頂き、新たな調査地を見つけることができたことにより、結果として平成27年度は北海道、大阪、広島、福岡、大分、熊本の各地の小学校(計6校)での採集が実現した。予定よりも多くのデータを採集できているといえる。 採集調査を分析・検討した内容の発表状況に関してであるが、まず平成27年の10月に日本音楽教育学会で口頭発表を行った(題目等は別途記載)。ここでは音楽学の研究者から様々な助言や提案を頂き、となえうたの記譜法や、非・西洋クラシック音楽を研究対象とする際の基本的な研究者のスタンスについて、新たな学びを得ることができた。また小中学校の先生方との出会いから、上述のように新たな調査候補地を開拓することができた。 さらに、日本教材学会の学会誌「教材学研究」第27巻にて、「報告」の部で調査をまとめたものが掲載されることが決定した(査読有り、題目等は別途記載)。これは平成26年度まで採集したデータと、今年度の科研費助成により行うことのできた北海道での採集調査のデータを合わせて検討し、エンゲストロームの提唱した「活動理論」の活動のシステムモデルに照らして、となえうたの新たなヴァージョン創出のシステムを描き出したものである。 以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、前年度の課題として残っている以下の観点からの分析に取り組む。となえうたをうたう際の子ども達の身体のあり方、新しいヴァージョン創出の際の子ども達の会話に関する分析である。分析のための理論的枠組みとしてこれまでエンゲストロームの所論を援用してきたが、行為論で知られるワーチの所論も視野に入れながら検討を進める。 となえうたをはじめとするわらべうたの実践に伴う知識についての検討も進める。ここではDavid J. Elliottをはじめとする音楽教育哲学や音楽学の所論を手がかりとしていく。これらの分析と検討の内容は、平成27年度同様、学会での口頭発表、論文にまとめて学会誌等で報告できるように作業を進めていく。 平成28年度の新たな取り組みとしては、まず、鬼決めやチーム分けの際にうたわれるとなえうたのデータの整理と分析に着手する。これまではとなえうた「どれにしようかな」に絞って採集・分析を行ってきたが、子ども達が日常的にうたっているとなえうたとして、この鬼決め・チーム分けのうたがあることが明らかとなってきた。最終したデータの数も多くなってきたので、傾向や類型を見出す作業に入っていきたい。 さらに、一般の方々に向けて、研究内容を広く知っていただくために、Webサイトを作成することを計画している。ここでは、採集調査の報告や、分析・検討の進捗状況について一般向けに報告したり、となえうたをはじめとするわらべうたの面白さについて扱った親しみやすいコラムを書くなどの作業をしていく。学術研究の知見を社会に向けて発信し、また我々の住む地域社会に古くからひそかに根付いてきた音楽文化に興味を持っていただけるように、取り組んでいきたい。
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Research Products
(2 results)