2016 Fiscal Year Research-status Report
中所得国マレーシアにおける財政と民主主義:開発志向国家の再考に向けて
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15K21493
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
鈴木 絢女 同志社大学, 法学部, 准教授 (60610227)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 開発志向国家 / 財政 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、アジア通貨危機以降の予算案文書の分析および現地でのインタビューにもとづき、単著論文「アジア通貨危機後のマレーシア: 彷徨する国家と財政赤字」(『国際政治』、第185号、661-81頁、査読あり)を出版した。本論文では、マレーシアにおける財政赤字が、首相府と財務省への予算拡大、とりわけ小規模インフラ事業と補助金事業によって引き起こされたことを明らかにした。また、会計検査院文書および下院議会における答弁などの資料にもとづき、これらの事業が、首相の承認を要する事業であることに加え、与党への支持獲得のために使用されたことを明らかにした。また、この事実にもとづき、本論文では、私的利益から独立・自立した政府を想定した「開発志向国家」モデルが、アジア通貨危機以降のマレーシアを観察するうえで適当でないことを主張した。本論文は、与党と選挙区、首相と党員との間での支持と分配の取引として財政をみなすアプローチを取っているものの、箇所付けに関するデータへのアクセスが不可能であることから、実証面での弱さは否めない。
このほか、単著論文「マレーシアにおけるゲームのルールと軍: 相互安全保障による漸進的民主化のもうひとつの道程」(酒井啓子編 『途上国における軍・政治権力・市民社会』、晃洋書房)および単著論文「マレーシアの一党優位体制におけるハイブリッドな連邦制」(松尾秀哉ほか編 『連邦制の逆説』、ナカニシヤ書店)において、本研究計画で収集した財政データを用い、それぞれ政軍関係と連邦制を財政面から分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予算書を用いた学術論文を3本公刊することができたという点において、外見上は順調であるといえる。ただし、当初予定していた英文での論文刊行は、まだ達成していない。 また、現在はマレーシアにおける予算および予算過程の分析に終始しており、財政と民主主義の関係に関する理論化に手が回っていない。 さらに、連邦財政全般の傾向は、上記論文によって把握することができたが、箇所付けデータが手に入らないいため、実証が弱いという難点がある。現地調査によって、全ての公共事業のリストを手に入れることが困難であることが明らかであるため、今後は、フィールドワークによってこの点を補完したい。 資料収集面では、予算書のデジタル化および現地研究機関との共有が進んだが、決算書の収集およびデジタル化は、現地の研究協力者の対応が不十分であり、まだ進んでいない。今年の4月、この問題に関する研究機関(IDEAS)との打ち合わせを行い、現在回答を待っているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)フィールドワークによって、公共事業の具体的な事例を見たい。これにより、首相の専権事項となっている小規模公共事業が、どのように決定され、誰を利しているのかを明らかにする。
(2)決算書のデジタル化が終わり次第、決算の分析を行う。
(3)開発志向国家における財政と民主主義の関係についての理論化を進める。
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Causes of Carryover |
マレーシア航空の運賃が、研究計画策定時よりも大幅に下がったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
決算書デジタル化作業の謝金および英文論文のネイティヴ・チェック謝金として使用。
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Research Products
(6 results)