2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K21501
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
松葉 涼子 立命館大学, 衣笠総合研究機構, プロジェクト研究員 (90555591)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 葛飾北斎 / 日本美術史 / 版画 / 版本 / 江戸時代 / 浮世絵 / 大英博物館 / 在外日本美術コレクション |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度の研究期間ではおもに『富嶽百景』を例にとっての事例研究と、版本のデジタル撮影、序文の読解、英訳、版元データの整理など基礎的作業をすすめた。また、ARC古典籍データベースから北斎版本のみを抽出して、版本カタログレゾネの土台となる北斎版本データベースを構築し、古典籍データベースに備わる翻刻システムを用いて本文のデジタルテキスト化を実施している。その上で、イメージマッチングシステムを独自のサイトで運営しているジョン・レシグ氏の協力を得て、複数の画像から同じ画像を引き出してこられるようなシステムを使って版の変遷を考えていくためのシステム構築についての打ち合わせを行った。 本文のテキスト化にあたっては『絵本彩色通』、『絵本孝経』全ページの翻刻を行った。他、すでにテキスト化してあった『富嶽百景』、『葛飾北斎伝』のデジタルテキストをARCの「語彙索引作成ツール」で閲覧、検索できるようにしてある。公開にあたっては現段階ではメンバーのみの非公開で運用している。 さらに、2017年度は2015年に大英博物館に寄贈されたアルバム91冊にも及ぶ北斎一枚摺のカタログレゾネ、アーカイブスの公開まですすめることができた。カタログには異なる3942種のデザインと、14979点の参考図版とが所収されている。文字資料についてはテキストの全文検索ができるようなシステムを構築しているが、PDFから書き出しているためにオリジナルとの比較が必要である。また、オリジナルの紙面の上にあとから手書きで書き加えられたメモなどは自動でデジタルテキスト化することができない。2017年度中に2500件(3942件中)の作業が終了した。作業については、イギリス国内の大学院生に依頼し、web上でのテキスト編集作業を随時すすめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、カタログレゾネの土台となる北斎版本データベースを情報公開できたことが大きな成果であった。現在では凡そ300件のデータが公開されている。総括的なカタログレゾネ構築のために、そこにさらに情報を追加、整理されていくこと、あわせてすでにデジタル撮影が終了しているものの、管理者との契約の上で公開できないデータについても情報のみが表示できるようにするなど、今後さらに充実した内容にしていくことが望まれている。 また、関連する浮世絵一枚摺のカタログレゾネのデータベースについても、構築、公開するまでにいたった。一枚摺のカタログレゾネはロジャー・キーズ氏によってまとめられ、現在大英博物館に寄贈されている。実際の作業にあわせて博物館内でアーカイブス資料公開の前例がなく情報公開にあたる様々な取り決めを形作ることに予想外の時間を要した。特に時間がかかったのは、複製作品に関する記述である。中には特定のプライベートコレクションに対して、複製と記されており、大英博物館としては個人のコレクションに対する評価に関わることは公開できないということになった。デジタルテキストの公開方法についてはARCの協力を得てすすめた。 個別の研究成果については、リーズ大学のエリス・ティニオス氏と『富嶽百景』の版の調査を実施した。大英博物館の「北斎展」にあわせて日本から借用した最善本といわれている『富嶽百景』と大英所蔵本、個人コレクション本の原本を比較し、また古典籍総合目録の画像とも比較して大きくわけて五種類の版の違いがあることを明らかにしており、二回にわけて口頭発表を行った。同内容については、2018年4月に米国スミソニアンフィリアー・アンド・サックラーギャラリーにおいても口頭発表する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究において、特に出版にかかわる部分で明らかになったのは、『新鄙形』(1837年刊)の序文の内容を読み解くと、同一版元が出版していた同趣向の版本を、北斎の挿絵に入れ替えて出版したことがわかる。同じことが同じく晩年の北斎が挿絵を描いた『絵本忠経』でもおこなわれたことをエリス・ティニオス氏が発見し、国際会議EAJSにて口頭発表で報告している。 版の前後関係は、版を細かく見比べることによって判断していたが、出版文化を考える場合、版元の出版意図がどのように影響を与えたかについては非常に重要である。ティニオス氏の報告では北斎の前に同一のテキストを用いて『絵本忠経』の挿絵を描いた北尾政美との比較を通して、北斎の独自の発想、およびその奇想を発見するに至っている。以上の調査、研究からカタログレゾネ構築にあたってはその版の変遷を捉えるだけでなく、版元との関係を整理することが必然であるとの認識にいたった。
しかしながら、版元については総合的なデータベースがまだない。2009年より別の科研費プロジェクトで版元のデータを入力してはいたが、データベースとして公開する前に研究期間の変更があり、情報の整理をしていながら研究成果の公開ができていなかった。来年度以降については、現在公開している北斎版本データベースへの情報をさらに追加していき、総合的なカタログレゾネの作成をすることにあわせて版本資料を研究する上での基礎資料となる版元についてもあわせてデータベース化していく計画である。さらに、版本にみられる版元は、特に出版を考える上では浮世絵の版元と統合、整理されることも必要である。データの公開にあたっては、立命館大学ですでに公開されている人名データベースを利用して、住所などの位置情報と、二代目、三代目と店名(店主名)が引き継がれる様相を時系列で表示できるような方法を目指している。
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Causes of Carryover |
2017年度は当初2018年度に予定していたデータ公開のためのシステムの構築を集中的にすすめたため、人件費にかかる費用が予定よりも少なくなった。2018年度において、できあがったシステムに情報を登録するための作業に人件費を充当する。さらにシステムが構築された上で、どの資料およびコレクションのデジタル撮影が必要なのかがさらに明確になってきているために、2018年度についてはデジタル撮影のための旅費、人権費がさらに増えることが見込まれている。
旅費についても、2018年12月に東京国立博物館と立命館大学アート・リサーチセンターとの共催で国際シンポジウムを企画し、北斎カタログレゾネ公開にあたって現在までの研究成果を公表する場をもつ。シンポジウムでは日英米の研究者を招聘し、博物館資料が公開されていく中で、個々のユーザーは何を必要としているのかを具体的に討論することを目的とする。以上の研究者招聘に必要な経費の一部を本資金より執行する予定である。
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Remarks |
以上のデータはLATE HOKUSAI: THOUGHT, TECHNIQUE, SOCIETYプロジェクトプロジェクトwebiste(https://www.latehokusai.org/)より公開している。
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[Book] Hokusai: beyond the Great Wave2017
Author(s)
Roger Keyes (Author), Angus Lockyer (Author), Alfred Haft (Author), Ryoko Matsuba (Author), Timothy Clark (Editor)
Total Pages
352
Publisher
Thames and Hudson Ltd
ISBN
0500094063
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